春が来る【円冬】



「いつまでサッカーボール蹴っているの」
冬花はリフティングを繰り返す円堂に声をかけた。高校3年の冬、正月も終わり周りの友達は目前の受験に向けて勉強に励んでいる。円堂は数々の名のある有名大学からのスカウトが絶えないそうだが、全て断っているそうだ。円堂は今後どうするか、周囲は焦っているのに対して円堂はおかまいなしにボールを蹴っていた。
夕日が落ちるのが早い冬の午後、この鉄塔の下で彼と会うとは思わなかった。
「鉄塔に灯りがつくまでー…ってあれフユッペじゃん!こんなところでどうした?」
ボールを蹴ることを止め、ベンチに座っていた冬花の前に立つ。
今気付いたんだ。結構長い間みていて、立つのも疲れて座っていたのに。
冬花はクスクスと笑って、自分の荷物に目線を向ける。
「買い出し。円堂君こそ、ここにいるのは珍しい気がする」
「そうか?んーそういや、部活引退するまではなかなか来なかった気がする」
頭をかいてそう話す円堂に懐かしさがこみ上げてくる。そのせいか、ついポロリと言葉がこぼれた。
「昔、ここで一緒に必殺技の特訓したよね、今のような夕日を背にして」
冬花は足をブラブラとさせて、自分の言った言葉にズキリと胸が痛くなる。あの頃からきっと夢中だったのかもしれない。知らない間に恋していたと気付いた時にはもう遅くて、円堂との距離は遠くなっていた。こうして出会えるだけでも胸が裂けそうに苦しい。
「そうだったな、フユッペのおかげで《いかりのてっつい》が完成して、世界へ行けるようになった。そう思うと、フユッペってすごいな」
二カッと笑う目の前の円堂に中学生の円堂が重なる。この人はいつまでも変わらないんだと冬花は痛む胸を押さえたくなった。
「わたしは何もすごくないよ。凄いのは円堂君だよ。わたしがトラウマを克服できたのは円堂君にまた出会えて沢山の楽しい思い出が出来て、前をむく勇気をくれたの。本当に感謝してる」
「何度も言うなよー言われすぎてそろそろ恥ずかしい」
また円堂は頭をかく。照れるといつもそうだね、小さい頃からそうだったね。わたしだけが知っている円堂君のクセ。次に見ることが出来るのはいつになるかな。
バチっとした音と共に鉄塔に灯りがともり、夕日も顔が見えなくなっている。そろそろ帰って夕飯の支度をしないと間に合わない。
冬花は立ち上がり、荷物を持つ。
「じゃあね、そろそろ帰らなきゃ」
冬花は手を振り、歩き出すと円堂が慌てて横を歩く。
「送る。すぐに真っ暗になって危ないし、夜道を女の子一人で帰らせたと知ったらうちのかーちゃんに怒られる」
冬花は驚いて円堂の顔を覗くと、少し耳が赤くなっている。
「女の子って認識あったんだね、ずっと幼馴染の認識だけかと思ってた」
「…っ当たり前だろ!あれ……フユッペどうした?!目にゴミでも入ったか?」
円堂に言われて自分の目元を触ると濡れている。ああ、わたしこれだけでもう泣けるくらい嬉しいんだ。そのことに冬花は思わず吹きだしてしまった。
「そうみたい、ねえ守くんはこれからもサッカー続けていくよね?」
「?ああ……もちろんだ!今日のフユッペはいつもと違うね」
「そう?わたしは変わらないよ」
それだけで十分だ。サッカーのマモルくんって呼べたらそれでわたしは前を歩いていくだろう、また道が交わらなくても。道が交わったとしても……。
いつか隣を歩く彼の手と繋ぐ日を夢みて、春を待つんだ。
「あー寒いね。早く春がくるといいな」
「そうだな」
真っ暗闇を照らすライトで二人が並んで歩く姿が映し出された。



20141124




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