嫉妬【遙凛】Fr!



ハルに似合うと思った。
そう言って差し出されたのはガラスで出来たイルカの置物だった。青く色づけされたイルカは光が反射するたびにキラキラと輝く。女の子ならまだしも男子高校生が男子高校生へとあげるものだろうか。けれど、つい魅かれてしまう。それくらい綺麗だった。まるで水の中を抜き取って、閉じ込めているみたいだ。ロマンチストの凛が買ってしまう気持ちも分からなくもない。
「どうした、急に」
「いや、この前家に泊めてもらったし、なんつーかこの前水族館行った時に発見してその……」
「家に泊まり来てもよいといったのはオレだ。別にお前からお礼をもらう筋合いない」
ドクンと胸が音を立てた。遙のつっぱねた反応にもじもじしていた凛がみるみるうちに顔が真っ赤になる。照れではなく怒っているのだ。
「……ハア?!なんでそこまで機嫌悪くなるわけ!?確かにそうだけど、何これ気にいらなかったワケ?」
遙に詰め寄る凛の瞳がとても泣きそうな目をしていた。凛が悪いわけじゃない。これはオレが悪いのだ。凛の好意を素直に受け止められない。多分、昨日の夜に読んだ嫉妬とかいう類のものだ。
凛は無言の遙の態度を自分の問いにイエスだと思ったようで、チッと舌打ちして背中を向けた。
「あーそうですか!」
遙の手からイルカの置物を奪って、凛は思いっきり地面に叩きつけようとした。
「ま、待て!」
遙は凛の大きく振り上げた方の手を掴んだ。するとバランスを崩したのか凛もそのまま倒れ込んでいく。ドシンと大きな音が家じゅうに響き渡った。ガシャンという音はしなかったので結果的にイルカの置物は割れずに済んだようだ。ホッとして遙が目を開けると目の前に凛の髪があり、塩素の匂いがした。
「いてて……ってお前下敷きになってるじゃん!ハル大丈夫か!怪我していないか!?」
凛は驚いて遙の身体から降りて向かい合わせになる。オロオロと遙の身体をくまなく見る姿に思わず吹き出してしまった。
「大丈夫。お前こそ怪我はないか」
「ああ、この大切な時期に怪我されたらたまったもんじゃない。お前と泳げなくなるのはオレは嫌だからな……」
どんどん萎れていく凛の姿に手が伸びた。遙は凛の頬に触れて謝った。
「すまない、嫉妬した」
「?何にだ。イルカにか?」
どうやら遙が不機嫌になった理由が分からなかったようだ。
「違う。……誰と水族館に行った」
「家族でだけど……ああそういうことか」
分かった瞬間、凛は声を上げて笑い出した。触っていた頬をペチンと遙は叩いた。凛は腹を抑えてさらに笑っている。遙は笑いが止まらない凛を引き寄せて、唇を奪った。笑っていた凛は真っ赤になって黙った。今度は怒っているんじゃない。
「笑いすぎだ」
「ハルが嫉妬するとは思わなかった」
「当たり前だろ!」
遙が凛に背を向ける。凛は背に頭を傾けた。
「なあ、なんでこのイルカの置物を買ってきたんだと思う」
頭の次は手を当てる。精一杯の凛の甘えだ。遙が黙っていると凛は話を続ける。
「これみていたら、お前の声が聞こえたんだ。泳ぐ時のお前の息遣いが。そしたら水中でのお前が浮かんでさ、ハルがいつもみる水中の景色ってこんな風にキラキラしているんだろうなって」
「息遣いって凛、変態か」
「るっせ、黙れ」
凛がそのまま遙を抱き締めた。彼らしいまっすぐな気持ちは嫉妬を愛しい気持ちへと変化させた。そしてドクンと胸が鳴る。ああ今すぐ襲いたい。
「凛、」
「ん?」
「オレも変態みたいだ」
凛がえっと声を出す間もなく遙は凛を胸に抱き寄せた。
イルカの置物は凛の手からゴトリと静かに落ちていった。



ワンライで書きました
テーマ「声+ガラス」
20140831




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