綺麗になっていく君は遠くに【照吹】



星の見えないビルの隙間から月が見え隠れしている。僕は照美と少し距離を置きながら横を歩いた。遊び疲れて足はだるくなって、歩く速度を落とした。するとさりげなく照美も歩く速度を落とした。そうしているうちに月が昇っていく。照美の髪のような色の月を指で輪をつくり囲んだ。
「髪、綺麗だよね」
女の子を口説くような台詞に内心笑う。照美は足を止めた。僕の言葉で足を止めたのではなく、信号で足が止まったのだ。ただ信号は僕以外を止めてはいない。車も人もいない交差点だった。
「これ、染めているんだ」
照美は髪を触り、肩にかかったひと束を払った。一本一本が綺麗な線を描いて背中へと流れていく。
「作り物みたいなものさ」
照美は苦笑いした。いつも自信たっぷりで髪もその象徴の一つだと思っていた。なのに、今はこんなにも自分の事をあざ笑うかのような表情をしている。僕は髪を染めたことはないが、一度染めると染め続けないといけないといったことを誰かから訊いたことがある。照美はこれからも染め続けていくのだ。自分の髪を傷める行為だとしても、自分が綺麗と思った髪にするために。赤信号が照美の髪を染める。そろそろ青になる。
「……そっか、いつも綺麗な自分に生まれ変わっていくんだね」
照美がこちらをみた。髪は青く照らされていた。
「行こうか吹雪くん」
「うん」
横断歩道を渡りながら、月を見上げた。本当は月も近くで見たら今見えている色ではないかもしれない。月もまた綺麗と見えるために染めている。横断歩道で僕たちの距離は近くなり、手が触れ、重なる。握った手から上がる体温と照美の優しい横顔が胸を痛くさせる。

僕も君によって染まって生まれ変わっていく。

横断歩道を渡りきると、照美は「じゃあね」と手を離した。
「また!会おうね!絶対!」
吹雪が大きく手を振ると照美は笑って背中を向けた。
僕の歩く方向に月はなかった。





20140819




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