おなまえよんでから【照吹】



「照美くん」
そう呼んだ時、身体の中を流れる血を全部感じた。生きていることへの実感が心の奥の底の底から湧きあがってくる。吹きぬけていく風が汗ばんだ肌を涼しくする。
「よんでくれてありがとう」
照美は安心したように呟いた。その表情は、自分の居場所を見つけた僕と似ていると思った。彼もまた自分の居場所がなかったのかもしれない。『照美』と呼ばれることで彼は息を一息つけた。

「何度でも、これからもいうから」
墓参りの帰り道、もう日が暮れ始めていた。広い道路は淡い橙色に染まっている。今日が終わってしまう。前を歩く照美の影を僕は踏むように歩く。彼がどこにもいかないように、影踏みをしている気分だ。
適当な会話は、かみ合っていない。それでも二人は会話を続けていた。出来るだけお別れの時を伸ばすように、また心の片隅に出来た金平糖を気付いていないふりをするように、吹雪はふと照美の髪を見つめた。
夕日に照らさてた照美の髪は眩しかったが、昼間にみた金平糖は落ちてこなかった。
僕もまた熱中症だったのかもしれない。
暑い夏。僕はお別れ際にもう一度、
「照美くん」と呼んだ。
彼は微笑んで、僕の頭に触れた。そして何も言わずに彼はまた僕の元を去っていった。
また会えると思う。
いつか遠くない未来で、繋げなかった手を次は繋ぐことが出来るだろう。
「アツヤもそう思うだろう?」
吹雪は自分の伸びた影に話しかけた。影はただ僕の姿を黒く映しているだけだった。





青プ14の無配ペーパーでした。

20140721




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