瞳【24歳吹照】




こうしてゆっくりと試合みるなんていつぶりだろう。

照美は白恋中と雷門中の試合を観客席から腕組みしながら眺めていた。前半が終了し、選手たちはそれぞれのベンチへと戻っていく。雷門中には今では知らない人がいないほどの有名人となった円堂君が監督をしている。この圧倒的不利なフィールドでもきっと円堂君なら勝つことを諦めることはないだろう。そして必ず彼に勝利の女神は微笑むのだ。

「おや」
照美は雷門中の様子を見ていて、見覚えのある容姿に気付いた。雷門中のコーチに就任した鬼道と親しげに話す彼は確か白恋中出身だったはずだ。
照美は彼をゆっくりと観察し始めた。特に雷門中の選手に話しかけるのでもなく、彼はちらちらと白恋中のベンチを見つめている。視線の先を辿っていくとある一人の選手を見ていることに気付いた。
確か白恋中のエースストライカーで、切れ味のよいスピードとパワーを兼ね備えたシュートを打っていた。雷門中はそのシュートを未だ止めることが出来ていない。

「吹雪士郎の跡を継ぐかのようなストライカーであるのに……」

白恋の子が視線に気づくと、ものすごい眼力で吹雪を見ている。その瞳には怒りと深い悲しみが読みとれた。吹雪は視線をそらし、地面を見つめている。

「あっ」
思わず、声が漏れた。僕のずっと奥にしまいこんでいたものが扉を次々と開けて前へと引き出された。10年前にも見たことがある。吹雪君と出会った時にしていた瞳と同じ。
僕が気になってしまう原因となった彼の瞳だ。手を差し伸べずにはいられなかった。
僕は怪我をして、病院にいる間に彼は無事に瞳に輝きを取り戻していた。もう大丈夫だと安堵したと同時に襲ってきた何か。それを僕は今の今までほったらかしにしてきた。触れずにしてきた。

吹雪はハーフタイムの間、僕に気付くことはなかった。白恋の子と吹雪の間に何があったかは分からない。だが、吹雪はこの試合にかけている。
照美は試合を見つめた。


―――結果は、予想通り雷門中が勝った。終了間近の白恋中の雰囲気ががらりと変わった。ずっと睨み続けていたあの白恋の子も楽しそうに試合をしていた。
吹雪はそれをみてとても嬉しそうに微笑んでいる。彼の瞳には10年前の面影はもうない。けれど僕は気付いてしまった。

「ああ、多分あの子を好きだったのかもしれない」

照美は奥にしまいこんでいたものに名前をつけてまたしまい込み、再び扉を閉じていく。吹雪の笑顔を照美はじっと瞳に焼きつけた。きっとそれだけで十分だ。
笑顔だけは10年前に輝きを取り戻した時と同じように最高に××なままだから。








吹照好きさんの誕生日だったので
20140225




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