少し晴れた気がした【基緑】



溶けたアイスの一部がビシャっと地面に落ちる。
「緑川は食べるのが遅いね」
ヒロトはすでに食べ終わっていてビニール袋にアイスの棒を入れた。緑川は落ちたアイスに構わず歩き始める。
「器用じゃないだけだよ。あとヒロトが食べるのが早い」
照りつける日差しに似合わないヒロトの肌の色。いくら日焼け止めを塗っているからと言っても普通ならば少しは日焼けしてもいいはずだが、全然焼けていない。オレは日焼けして毎日風呂で痛い思いをしているというのに羨ましいものだ。そういうところを見ると、ヒロトが宇宙人だと言っても頷けるところがあるから恐ろしい。
宇宙人と名乗っていたのはほんの数週間前の出来事だ。夏休みが終わり、今は数日後の運動会に向けて変則的な時間割で一日を過ごしている。今日は一日リハーサルで、部活動もなく放課だ。アイス食べないかとヒロトが誘った。今まで滅多に買い食いなんてしないから珍しく思い、雨でも降るんじゃないかと少し心配した。明日が本番なのだからそれは困る。

「緑川は学校に行けるようになって嬉しいと思うかい」
そう言われたのは、ようやく食べ終わって通りがかった公園のごみ箱にアイスのごみを入れた時だ。
「え?そりゃあ嬉しいけど……ヒロトは嬉しくないの?」
「いやそういうわけじゃないんだけど、ついこの間まで何もかも捨てたのに普通に拾い直して不思議な気分なだけ」
「不思議な気分か……」
本当の息子を殺した世界を憎み、子どもたちを復讐の道具にした父さんをオレは別に恨んでいない。辛いこともあったがあの事件から周りが良く見えるようになって、特にヒロトの事を考えるようになった。ヒロトはあの事件で一番変わった。父さんがいなくなり、落ち込んでいたみんなを元気づけて学校に行けるようになった。周囲の目もあったが、そこは瞳子さんが懸命に走りまわった結果だとヒロトは言った。夏休みの終盤にはキャンプに行った。ヒロトからの提案で、キャンプを通して子どもたちの中であった宇宙人としてのランクの違いが大分薄れたと思う。ヒロトが言うようにこうして運動会の練習しているのも変な気分だ。普通の中学生としての日常。二度と来ないとユニフォームに袖を通して、辛い日々を過ごしたあの頃。ヒロトと一緒に寄り道してアイスを買い食いした今がなんだかくすぐったい。
「ヒロトは拾い直したというより、新しく作り上げたんだと思うよ」
ぼそりと緑川はつぶやいた。何気なくいっただけだったのに、ヒロトはハハッと笑った。
「そうだね、もともと持ってなかった。宇宙人になる前は父さんが一番で他はどうでもよかった。今はいろんな人やものが大切したい気持ちが強い。こう言ったらいけないけど、宇宙人になってよかったと少し思うよ」
宇宙人になってよかった。ヒロトから出た言葉に緑川は頷いた。
「こうして緑川と帰る事もなかったからね」
「ヒロトがオレにこうしてこんな話をする事もね」
「確かに」

暑い暑い夏の日、ヒロトの事が少しだけ分かった。
きっとこれからもっと知っていくだろうと二人の影は濃くなっていった。












20131225




prev next








×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -