あやかしパロ【照吹】



僕たちはどこも似てない家族だった。
照美は僕を産んだ覚えはないから僕を産んだ時どんな気持ちだった?とかきけない。僕が自覚を持つ頃に照美は僕とは全く別の、神聖な生き物だと知った。僕が捕まえた兎を食べていると、照美は向かいで水を飲んでいる。それだけで彼は生きることが出来た。他の生き物を殺して生きていくのが自然の掟だと彼は教えてくれたのに、生き物を食べない。それについて幼い僕が訊ねると「僕は沢山の生き物を食べてきたから、もうこれ以上は食べられないんだ」と答えた。下半身が蛇で上半身は羽が生えている照美は周りから特殊なものであり、触らぬが祟りなしである。僕と出会うまではずっと一人で生きてきたらしい。僕は14年間照美を見てきた。育ててくれた照美はずっと変わらぬ姿で、狼の僕を見守ってくれた。

「僕、街に住もうかと思うんだ」
満月が美しい夜、吹雪は照美に告げた。何も言わない照美の様子に突然言ってしまったことに申し訳なく思った。吹雪は照美との生活が嫌なわけじゃない。ただ照美にずっと頼っているのはどうなんだろうと考えていた。
「と、友達が近くに住んでくれるらしいから心配しないで大丈夫だよ!街とここまでなら半日で帰れるし…」
怒っているのかなとドキドキしながら照美の口が開くのを待つ。照美に反対されたらそれまでかもしれない。でももっと知らないことを知りたい。吹雪の心の中は揺れていた。するとゆっくりと照美の腕が伸びて吹雪の頭を撫でた。
「そう言うと思ったよ。いってきなさい」
照美の澄んだ優しい声。照美は賛成した。僕はここを出ていくことが今決まった。

その夜、夢を見た。
照美が脱皮する話だった。照美はいつも脱皮は夜が更けてから森のさらに奥にあるぽっかりと開いた洞窟内で行う。脱皮中はしばらく動けないため敵に襲われる危険があるからだ。
僕は一度だけそれを見たことがある。白い肌が少しずつ剥がれていく。照美は痛みのためが目から涙が流れっぱなしだ。正直怖かった。
いつも優しい照美が息を切らし己と闘う。妖気というものかそれが辺りに蔓延し、自分の体から見てはいけないのだと警告する。
僕の知らない照美だった。
夢では優しい表情の照美の皮膚が剥がれていく。吹雪は見てられずに目を瞑ろうとするがいうことを聞かない。照美が吹雪を指差した。ぱらり。
ぱらぱらと僕も同じように皮膚が剥がれている。自覚するとヒリヒリ痛みだして反射的に涙が出てきた。これは痛い以上に怖い。
「君も僕が知らない自分になるんだね」
顔が半分新しい白い肌の照美は泣いて言った。


翌朝、目が覚めると頬が湿っている。僕の方が泣いていたのだ。とぼとぼと身体を起こし、部屋を出ると照美とばったり会った。
「目が赤い。怖い夢でもみたのかい」
「………そうかもしれない」
吹雪は照美に抱きついた。照美は吹雪を抱きしめ、背中をぽんぽんと叩いた。
「まるで子どもに戻ったみたいだね」
照美は苦笑いをしていた。
夢で最後に言われた言葉が引っ掛かっている。それが寂しくさせている。

知らない自分になる。
ここを出ていくということは家族というのが切れて他人になるということかもしれない。
他人になる。照美の知らない僕になる。
出ていったあと、次に照美に会うとき僕は他人なんだ。
今更、気付いた。僕たちは他人だった。似ても似つかない他人。

「出ていきたくなくなってきた」
吹雪が照美の胸のうちで呟いた。
「それは駄目だ」
「どうして」
「運命だからだよ。君は今日、この家を出ていく。それは昨日決まった運命」
「誰がそんなの決めたの」
「吹雪君だよ。運命は自分で勝手に決めちゃうものさ」

僕たちの家族ごっこは僕が終わりにしたんだと言われた気分だった。

荷物をまとめていよいよ出発の時間となった。
「いつでもまた遊びに来なさい」
「照美くんに言われなくても遊びに来るよ」
「じゃあ身体には気をつけて」
「そっちこそ」
ざわざわと風が木々を揺らす。日が傾く前に行かねばならない。吹雪は頭を下げた。
「今まで面倒を見てくれてありがとう」
「………それを言われると、一気に老けた気分になるね。どういたしまして」
「じゃあまたね」
「うん」
家族はここでおしまい。手を振る照美の笑顔が穏やかで優しかった。彼は運命を受け入れて生きている。照美の姿を焼き付けて吹雪は街へと続く道を歩き始めた。空には綺麗な青が映っていた。



















吹雪が家族以上の想いに気付くのは、もう少し後の話。

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ある方のあやかしパロがすごく興奮して書いてみました。その方が今日お誕生日なのでこっそりお祝いも込めて。照吹供給いつもありがとうございます!
私じゃ表現しきれていないし、設定をかなり折り曲げちゃってるんで、ちゃんと詳しく知りたい方はわたしのツイッターのお気に入りとかみてください。


20130504





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