誰かとの恋【春秋】



先輩へ

廊下の行き止まりで貴女に告白したことを覚えていますか。何度も端っこが折れた紙に書いて練習したのです。
「先輩好きです。付き合ってください」
手に持っていた紙はしわくちゃで、シュレッダーになった気分で細かくちぎりました。
「音無さんはわたしと本当に付き合いたいの」
どうしてそう思ったかあたしは分かりませんでした。いえ、あのとき本当に分からなかったのです。貴女に言われて気づきました。
「いいわよ」
先輩はわたしの小指を自分の小指に絡ませました。
「少しの間だけだよ」
穏やかに笑う貴女が少しだけ怖かった。


***
先輩はあたしに甘えてくれた。あたしの前にきて突然泣くのだ。
「なぐさめて」
背中をさすってあげると先輩はさらにしゃくりあげた。なんて脆いのだ。あたしは精一杯腕を広げた。
「センパイ!あたしの胸の中で存分に泣いてください!」
おかしな子ねとクスクスと笑いながら身体を預けてくれる。一つ上の先輩の身体はあたしと同じくらい小さかった。わたしはそうやって先輩頼られるのが好きだった。理由はいつも決まって恋煩いだ。わたしとの恋ではなく男の子との普通の恋。先輩は優しいから何もいってくれないけど、先輩の目を追っていれば分かる。先輩は報われない恋に夢中だった。そして、わたしはその先輩に恋心を抱いた。
「音無さんごめんなさいね」
「いいんですよ〜好きでやってるんですから!」
「ありがとう、好き」
先輩が手を背中にまわしてわたしを抱き締めた。柔らかい温もりとほのかなお日様の匂いがする。
「わたしも好きです」
どちらも好きだといっているのに、これは一方通行だ。おかしいなあと二人を照らす日は眩しい。


***
「春はすぐそこまで来ているわね」
校庭の桜のつぼみを見ながら先輩は言いました。そうですねと明るくわたしは返したはずです。どうしてかここは曖昧ですね。だって貴女の次の言葉にわたしは泣きじゃくって、ようやくこうして紙に書くことが出来る今も頭の中で響いているんです。
「そろそろごっご遊びはやめましょうね」
貴女はどうして分かったのですか。
ぼたぼた涙は溢れて制服の袖で拭っていると、すぐに差し出したハンカチ。可愛い四つ葉のクローバーのハンカチでした。遠慮なく貰って、目に当てて鼻をすすりました。わたしはあのとき何て返したんでしょうか。ひどいとかなにがいけなかったとか、どうしてそんなことをいうの、ですかね。
「わたしはまだ大人になれないし貴女を困らせるだけよ」
「そんな、こと、ない……」
「いいえ。だってこうして別れることは貴女のためと思っているもの。許してね」
しゃくりあげたわたしの背中をあの時絡ませた手が擦ってくれました。わたしはさらに泣きました。貰ったハンカチが雨に濡れたようになるまで。
今にして思うのです。貴女は最初から全部分かっていたんじゃないですか。わたしを初めから利用するつもりで、『本当に付き合いたいの』って訊いたんでしょう。報われない恋にずっと囚われいた貴女ならきっと手に取るように分かったのでしょうね。わたしの恋は恋じゃない。憧れなんだって。
あの時反論できなかったので一つ今反論させていただきます。
あれは恋でしたよ。そして貴女もそうだったんじゃないですか。それに気付いた貴女は別れを切り出した。だって最後に絡ませてくれた小指が震えていて熱かったんですもの。
もしわたしがそのことに気づいてキス1つでもしてあげたら、貴女を一生悩ませることが出来たかもしれませんね。
卒業おめでとうございます。
またお会いすることを楽しみにしています。
その時はお互いにあれは良かったと思える恋をしていましょうね。

貴女が好きだった春奈より


***
わたしはピンクの封筒に書き終わった手紙を入れて下駄箱まで走った。角を曲がり階段を降りて先輩の名前を探した。何度も頭に描いてきた光景だ。こんなに緊張するのもあの時ぶりかなと胸に手を当てた。ステンレス製の少し傷が付いた下駄箱を開ける。外靴の上に手紙が落ちないように慎重に置く。先輩ならこの手紙をいつまでも大切にしてくれるはずだ。汚したらその可能性がなくなっちゃうかも。わたしはゆっくり下駄箱を閉じた。安心して息を吐くと外から生暖かい風が入ってきた。
「あったかいなあ。春が近い」
上に手を伸ばして背伸びをする。なんだかスッキリした気分だった。
お日様の匂いが微かに漂う思い出をそっと後にした。













秋をお母さんと重ねる春奈の話でしたが全く分からない
20130311




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