オレスキ―バンザイ【基緑】



綺麗な瞳をしている男の子がいた。「きやまひろと…?」みんなと同じ5才よ、仲良くしてあげてね。瞳子姉さんはニコニコと言った。オレはうん!と嬉しそうに高らかに宣言した。
「オレのなまえは、みどりかわりゅうじ!よろしく!」手を差し出すと恥ずかしいのか瞳子姉さんの後ろに隠れた。緑川はその後ろに回り、もう一度手を差し出した。
「あくしゅ!」
ヒロトはおずおずと手を差し出して緑川の手のひらに触った。すぐに緑川はぎゅっと握った。ヒロトは意表を突かれたようで、手を引っ込めようとするもしっかりと握った手を離さなかった。
「君の手あったかいね」
彼は強張っていた表情をゆるめた。あの時の顔は今でも忘れられない。

一緒に寝るのはいつまでも変わらなかった。

――――ベッドの軋む音がぞくぞくさせる。そんなことをいったら幻滅してしまうだろうか。聞いていると思い出してしまうのだ。愛もなくただ行為を繰り返してどちらも傷を舐め合っていた時代をオレは忘れていない。時々考えてしまうことがある。あの子のこと。あの子は父さんの指示によって俺が生み出した全くの作り物。演じているオレは本当の気持ちはなくなり、壊すことを繰り返していた。自問自答してはいけないのだ。あの頃の思い出はオレの中で消えなければそれでよかった。オレはとにかくヒロトが好きだった。命令じゃなくてもヒロトを好きと言っただろう。

握ってくれる手がオレには優しい。ヒロトの好きが伝わってくる。人はもっともっとと欲が出てくる。満たされた欲が次の欲に席を明け渡すように、オレは最中何度もヒロトの名前を呼んだ。薄暗がりにみるヒロトの瞳は色は違うはずなのにエイリア石を思い出す。人の欲を引き出すようだ。あの子も同じ色の宝石を見ていたのだろうか。
「ヒロト……」
「なんだい、リュウジ」
彼の赤い髪が鼻をくすぐってくしゃみが出そうだ。初めて会った時もそうだったね。

今でも温かい彼の手はオレの顔を優しく撫でた。
「くすぐったいよー」
「リュウジの顔ってすごく撫でやすいんだもの。しかも少し冷たくてちょうどいい」
「しってる?手が温かい人は心が冷たいんだって」
「何それ。オレの心が冷たいんだっていうのかい」
「うん」
「何それひどい」
眉間にしわを寄せてヒロトは額をでこピンした。
「痛いよ」
額を触るとヒロトはほくそ笑む。彼はいつだって余裕満々だ。
そんなヒロトが欲しかった。いやどんなヒロトでも欲しかった。ヒロトはオレに何を求めたかなんて知らない。オレは確かにずっとヒロトを求めている。ヒロトもオレに求めている。あの日分かったんだ。
「好きだよヒロト」
ヒロトの耳元で言ってあげると、唇に触れてくれた。柔らかくて湿り気のある感触。
「もっと」
「好きだよ。好きだよ」
「もっと」
「好き。好きだよ」
ヒロトはオレが言うたびに唇で愛撫した。瞳は光っているかのようにオレを映しだす。
「好き……すき…す…き」
彼のことは分からない。一緒になってもずっと分からない。でも彼の表情を見る限りとっても安心してオレの横で息をしてくれている。それだけでいい。ずっと二人で。
手の温もりがオレを安心させるように、ヒロトの心はオレが温かくして今夜もおやすみ。


20130303




prev next








×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -