おはよう【円冬】



「あ〜いまいなおじきは逆にいや〜」
「冬花最近そればかり歌っているな。何の曲だ?」
「ん〜自転車のCM〜」
コトンと道也の前に出来たベーコンエッグを置いた。次に向かいの席の前へ。冬花はエプロンを取りながら、その席に座った。
「もうお父さん、新聞たたんで」
冬花が注意すると道也はすまんと呟いて、新聞を横に置いた。
「いただきまーす」
「いただきます」
冬花は二人が揃う朝食の時間は大切なものとなっている。道也の仕事がしばらく立て込んでおり、夕飯を一緒に食べることが少なくなったからだ。道也も分かっているのか自然といろいろ話してくれる。道也の飲むコーヒーの香りと朝の日差し、美味しくできた朝食は冬花にとって心落ち着けるものだった。
「冬花、そろそろ学校に行く時間」
「え?」
冬花はテレビの上にある時計を見た。時計はすでに家をでなきゃいけない時間である。
「ほんとだ…!大変!」
「片づけはわたしがやるから早く準備していきなさい」
「えっでも…」
「いいから」
道也はそういうと冬花の皿を自分の皿の上に置いた。
ここはお言葉に甘えて、急いで支度しよう。
「ごめん、お父さん!」
冬花は自分の部屋へと走って鞄を取り洗面台へと向かう。歯磨きをして、髪の毛を整えて鏡の前でにっこりと笑って笑顔の確認。
「よし!」
バタバタと走り、道也に一言お礼といってきますを述べて家を出た。
走っていたがそろそろ疲れたと横断歩道の前で止まる。息を整えていると横断歩道を渡った先に見覚えのある後ろ姿が見えた。信号は赤になっていた。
(気づかないかな)と念を送ってみたが、気付かない。そのまま後ろ姿が小さくなろうとした時、信号は青になった。
どちらにせよ、学校で会うのだ。今走って髪ボサボサになって話しかけなくてもいいんじゃないか。冬花は胸に手を当てた。心臓は未だドキドキと鳴っている。
今日の朝口ずさんでいた歌を思い出した。
「曖昧は嫌だ」
冬花は走り出した。
「守くん!」
届かない。もっと近くに。もっと大きく。
「守くん!」
声に気づいて、円堂は後ろを振り返ると冬花が息を切らして走ってきている。
「!?どうした!?フユッペ!?なにかあったのか」
円堂は驚いて冬花を心配した。
「……えっ………なん……にも」
息が切れ切れで肩で呼吸する。ますます円堂の頭の上にははてなマークが飛ぶ。冬花はその様子がおかしくてクスッと笑い、顔をあげた。
「守くん…おはよう!」
「え……ああ!おはよう!」

円堂は満面の笑みで答えた。
二人は歩きだした。


本当に何でもないのか?と円堂は心配し、冬花の髪を触った。冬花は円堂の顔をみた。自分のしたことに気づいたらしく手を離す。
「せっかく綺麗なのに…は、はしったらダメだ」
顔が真っ赤になっている円堂をまたクスリと笑った。


「走りたいほど、言いたかったの」










BGM:「milk」aiko
20120201




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