猫は顔で選ばれた【蘭マサ】







ーーキモいだとかただの後輩だと思っていたとか言わずに「んじゃ付き合うか」と靴ひも結びながら言わなくてもいいし、せめてこっち向くとか少し無言の間があってもよかっただろ!

あの日布団に入ってから思い出して叫びたくなったことだ。今の今までで一番勇気を振り絞り何度も台詞考えてきたのに、即そう言われた。あの人まさか本当に女だから悩む必要なかったとか!?と性別を疑う域まで降りたところで眠っていた。

付き合うといっても一緒に帰るくらいで、何かするわけでもなく下らない話をする。いつもと変わらないしああ夢だったかもと思うときもある。しかし夢ではないし、変わらなくない。
霧野センパイの顔を直視できないのだ。
「狩屋ってさーなんでオレの顔みないわけ。オレの顔そんな好みじゃなかったとか…?これでも好かれるような顔してると思うんだけどなー」
「…違います。てかそれ他の人には言わない方がいいですよセンパイ」
「じゃあなんでだ」
霧野が狩屋の両肩を押さえつけた。真正面に見る形となりすぐに狩屋は下を向いた。すると下から霧野が覗こうとする。今度は狩屋は上を向いた。霧野が顔をあげると下を向く。霧野は口をへの字にさせ両肩を揺らした。
「おまえーセンパイの顔が見れないのかー!」
「センパイやめっ…!あーもう恥ずかしいんです!」
狩屋はついに白状した。
「なんかこれもオレのなんだなあってついにやけるしなんか前よりキラキラみえるし…」
霧野がパシイインと狩屋のほっぺを両手で挟んだ。
「だれがお前のだ!オレのものはオレのだ!そしてお前はオレのだ!」
なんだそのジャイアンはーー!?
霧野をみると得意な顔してふんと鼻息を出した。
「やっと顔見てくれたな」
霧野はにかっと笑った。顔をそらそうとしても頬を押さえられているので、そらせない。
女と見間違うくらい整った顔、その中でも長い睫毛が美しい。くらっと酔いそうなくらい…襲いたくなる顔が目の前にある。触りたいと思っても仕方がないじゃないか。これが女の子だったらここで触っても誰かが見ていてもカップルにみえる。だが男がそうしたら、センパイも引くんじゃないか。センパイのあのさらっと答えたのは、なにか勘違いしてるのではと思ってしまう。不安は不安を誘う。

「センパイ、どうして女じゃないんですか」
マサキは訊いた。霧野は両手を離し、一瞬きょとんとしてそれから笑った。
「女じゃお前に惚れなかったぞ」
「じゃなんでですか。なんで付き合うかと簡単にいったんですか」
「告白したお前の顔がよかったから」
「!?顔!?」
「まあ深く考えんなって。そのうちわかるって」
よしよしと頭を撫でる先輩。なんか猫のように扱われている気がする。

「………じゃあ分かるまで付き合ってもらいますからね」
「生意気め」

猫はデコピンをくらった。




20120121




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