ブランコ【蘭マサ拓】



キイとブランコを漕ぐ。足が空中に浮いて身体は飛ばされそうになるのを左右の鎖を掴み押さえる。ゆらゆらと振り回すブランコは空がよく見えた。

「かーりーやっ!」

地面、公園の景色、空と変わる視界に二つ結びの女顔が一人声をかけた。二回目の地面の後に確認すると、一人で来たわけではなく後ろにはウェーブがうまい具合にかかった(天然パーマらしいが)先輩がいる。
(霧野先輩だけでなく神童先輩がきたのは珍しいな)

狩屋は思いっきりブランコを漕いで高さを出して、最大限身が前に乗り出すポイントで飛んだ。先輩たちのいるブランコを囲む柵の外へ見事に着地。オレながら、綺麗に着地出来たと思う。

狩屋がどうだ!と自慢げな顔で隣にいた霧野の方をみると、左サイドから強烈な拳が降りかかってきた。
突然だったので避けることも出来ずに見事にヒット。その勢い、狩屋はその場で尻をついた。

「いった・・・霧野センパイ何するんですか!」

「オマエ、バカだろ!足が柵に引っ掛かって怪我したらどうするんだ!小学生でもないんだし!」
神童が大抵の男子中学生には持ってないだろうハンカチを差し出し、狩屋に大丈夫かと声をかけた。

霧野の怒りは収まらない。
「神童!こいつが悪いんだ!しかも大事な試合前だって言うのに、怪我したら・・・」

「落ち着けよ、霧野」
神童が冷静に諭すと、まだ言いたかったらしく下唇を噛み締めて黙った。霧野はどうしてこんなに怒っているのだろう。狩屋には分からない。
狩屋はハンカチを手に取らずに立ち上がった。殴られた際に口の中の膜が切れたようで鉄の味がする。

「センパイ、別にオレが怪我しても他に選手がいるでしょうが」
「お前またそういう・・・!」
ニヤリと口角を上げると、神童が狩屋の肩に手を乗せた。

「狩屋、オレだってお前が怪我したら困る。危険な行動はやめてくれ」
こんな神童の顔初めてみた。凛々しい顔立ちが睨むのは少し怖い。しかし、狩屋の口は変わらずに続ける。

「それはオレが同じチームだからですか。神童センパイが責任を感じちゃうからですか」
「狩屋!」
霧野が怒鳴った。神童は明らかに傷ついた顔をした。

(悪ふざけが過ぎたか)

「冗談ですよ、冗談。これから以後気を付けますって」
慌てて手を左右に振り誤魔化した。霧野がはあとため息をついた。
「ったくせっかく神童がいつもと様子がおかしいお前を心配してここに来てくれたのに」
もう一発殴りたくなってきたと霧野がずんずんと狩屋に迫ってくる。もう勘弁してくださいと手を合わせて謝った。
「まあ、オレはいつものことだからほっておけよと言ったんだがな」
そこは違うだろ!と心うちで突っ込みをいれた。
霧野先輩は置いといて神童先輩がオレの様子がおかしいと気づく方が不思議だった。そこまでオレを見ているとは思ってもなかった。神童先輩は霧野先輩にオレを任せきりで(この表現はあまり好きではないが)、オレなんかよく見てもいないと思っていた。オレの方が霧野先輩の視線の行く先に追うたびに必ずいる神童先輩を目で追っていた。神童先輩の様子がちょっとでもおかしいと、霧野先輩がすぐに声をかける。端からみれば過保護なほどに。二人は幼馴染みだからだよと周りは言った。幼馴染みだから?それにしても霧野先輩はおかしい。あの人は周りなんか・・・オレなんか全く見えていないのだ。きっと今日オレの様子がおかしいなんて知らなかったろう。オレの様子に気付いた神童の、様子がおかしいから気付いただけなんだ。

「なにかあったのか」神童が言った。
「今日少し家で大切な人の亡くなった日らしくて。家の大人みんな沈んだ顔していて。その人、すっごい昔に亡くなって姉さん以外に面識も血の繋がりもないのになあと考えていただけです」
狩屋はブランコ近くにある自分の荷物を取りに行きながら大きな声で話した。
特にヒロトさんは複雑な顔をして仏壇に向かってお線香をつけていた。あの哀しいのか悔しいのか辛いか分からない表情は頭から離れない。

「そうか。大切な人ならいつまでも辛いのかもしれないな」
神童は手に出したハンカチをしまった。
「お前も辛いんじゃないか」
霧野が言う。
「どうしてです。全く知らない人ですよ」
「その人に対してじゃなく、自分の家族に。どうして沈んでいるか分からないしその人の大切さも分からない。だから共有できなくて辛い」
こういうことには鋭いよな。狩屋が今度は下唇を噛んだ。




遠くで6時を告げるサイレンが鳴っている。
「さて。帰るか」
霧野が狩屋の手を取った。
「は!?」
狩屋がびっくりして手を振り回すが、離れない。
「じゃあオレも」
神童が霧野と反対側の手を取った。
「いやいやいやセンパイ方!?これ相当恥ずかしいですよ!?」
顔を真っ赤にさせながらどちらの方もみた。

「罰だ。お前が俺たちに余計な心配をさせるから。一緒に辱しめを受けているんだからありがたく思え」
そうして歩き出してみると、二人とも実に楽しそうである。
オレだけじゃねーか!顔真っ赤にして歩いているの!あまり恥ずかしくなさそうに手を振ってんじゃんか!

狩屋が頬を膨らましていると、
「実はな、あそこまで霧野が怒ったのは訳があって」
神童はクスクスと笑い出した。
「神童ー」
「いや、話さないとだめでしょ。殴ったし」
霧野は渋々口を閉じた。
「昔、霧野がブランコでまさに狩屋のようなことをしたんだ。けど狩屋のようにうまくいかなくて、顔を思いっきり打った。顔を上げたら鼻血だらだらながして、自分自身も驚いたみたいで放心して。オレは霧野本人以上にびっくりして大声で泣き出したんだ。そしたら、霧野が『ごめん。もうしないから泣かないで』と泣き出したんだ。自分の痛み以上にオレが悲しんだのが辛かったんだな。だから、あんなに怒ったんだよ」

前に出る三人並んだ影が遠くまで伸びている。

「お前が怪我をしたら悲しむ人がいる。俺たちだって、お前の家族だって」

神童は狩屋に優しく笑いかけた。恥ずかしくてふいと反対を向くと霧野の耳が赤い。
自分が泣いた話は嫌なのかもしれない。すると、目が合い霧野は空いている手で狩屋の頭をくしゃくしゃにした。

「そういうことだ。お前は俺たちに必要なんだ。間違っても他に代わりがいると思うなよ。狩屋は一人しかいないんだ」

分かってますよーと適当に流すとまた神童がクスクスと笑った。
ブランコの冷たい鎖で冷えた鉄くさい手は二人によって暖められ、気持ちよかった。
























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ヒロトが出てきたときはまずいと思いました。話がそれる!って。
きっとイナズマイレブンの世界ではサイレンなんかならない。
霧野はとことん神童しか見えていない。

20121212














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