道化師の手に【南倉】



朝、テレビでサーカスのことを報道していた。今日から街の中心でサーカスが開催される。中でも注目は道化師ピエロと空中ブランコだ。特に道化師はその愉快な喋り口調と鮮やかなパフォーマンスで人気を博している。画面には前に公演した時に撮られたピエロが登場する項目が流れる。色鮮やかボールが右から左へと生き物のように動く。観客はそのボールを目で追う。調子にのりだしたピエロはボールをどんどん高くしていく。音楽も次第に盛り上がりとうとう黄色いボールが天井に届い・・・たと思ったら空中ブランコの網に当たり、ピエロの頭上に直撃した。ピエロはその場に派手にこけて、顔を上げて頭を自分でコツンとした。観客がドッと笑いの渦に巻き込まれたところで映像はスタジオへと戻る。




倉間はパンに目玉焼きを乗せてそのピエロを見ていた。みんなを魅了するピエロ、すべて計算して行っていることだとわかるのに、何故か目が離せない。パンをひと齧りすると黄身がとろっとこぼれた。慌てて流れる黄身をうまく口に入れていると、テレビからまた歓声が聞こえる。今度は空中ブランコだった。危険を冒しながらのパフォーマンスが見事成功したようだ。最後はピエロとその空中ブランコの人が並んで終わった。







南沢が女の子にモテることは、部内でも学年の違う2年生の間でも有名な話だ。

「倉間君」

放課後、自分と同じくらいの背丈の女子がもじもじしながら声をかけてきた。自分はいつも不機嫌そうというイメージがあるらしい(浜野談)ので、滅多に女子に話かけられない。

「なに」

ぶっきらぼうに返事をすると、女の子は身体と少しびくつかせたがぐっと顔に力を入れてまた口を開いた。

「あの!南沢先輩にこれを渡してくれない?」

目の前につきだされたのは可愛い封筒にちんまりと女の子らしい字で書かれた「南沢先輩へ」という手紙…ラブレターだ。

「必ず渡してね!じゃあ!」

「いやまて…」と断る前にその赤らめた子はそそくさと教室を出ていってしまった。残された倉間はぽかんと預かった小さな花が散らばったラブレターを眺めた。携帯電話がある今時、ラブレターを書く人がいるとは思わなかった。この中に入ってる手紙には一体どんな思いが書かれているのだろう。自分の紹介、南沢さんのいいところ、好きになった理由、恥ずかしがり一生懸命に考えて、必死になって自分の想いを届くように。きっと南沢さんをそこまで知らないくせに、よくそういうことが

「出来るよな…」

馬鹿にしているんじゃない。羨ましいんだ。自分がそんな風に動けないから、そんな風に赤らめてラブレターなどと渡すことを誰かに頼むなんて無理だ。想像するだけで寒気がする。




南沢の3年の教室は倉間の教室から階段を上がって、1番奥の教室だ。今日は部活がないから、教室までいかなくちゃ。

階段をだるそうな足取りで上り始めると、上から「おい」と声をかけられた。南沢さんだ。

「なんだ、3年の教室に何か用か?」

「というか南沢さんに用ですよ、ほら」

先ほど預かった自分に似合わないラブレターをポケットから取り出し南沢に渡した。南沢は怪訝そうな顔をして、ラブレターを指差した。

「お前がそんなものを書くとは思わなかった。人は見かけによらないんだな」

「バッ・・・・そんなわけないじゃないですか!!クラスメイトから頼まれたんですよ!」

南沢の手にべしっと渡した。

「いてえな、お前」

家に帰ってみればいいものをその場でビリビリと封を開けて手紙を一瞥して紙を破いた。その音がひどく痛々しく感じて倉間は顔を歪ませた。

「それはひどくないですか。せっかく頑張って書いたラブレターなのに・・・」

「別にいいだろ。オレがもらったものをどうしようと」

そうだ。どうしようと勝手だ。オレの知らない沢山の女子から告白されてきた南沢にとって最早面倒な案件なのかもしれない。けれど、自分がもしこの気持ちと伝えたら同じようにくしゃくしゃに丸められて捨てられたら・・・。今まで溜めてきた想いはあなたにとってはそんな簡単に捨てられるもんですか、など自分勝手なことを考えた。

「用はこれだけか?じゃあ、オレは帰るから」

南沢は倉間の横を通り、階段を下りていく。
これでいいのか。用はこれだけか。聞きたくないと頭の中で連呼しているのに、

「…もし!それが俺からだったら捨てますか!」

訊いてしまった。顔を真っ赤にさせて、答えが怖くて震えてしまう。

「捨てる」

南沢ははっきりとそう言った。倉間の頬には涙が伝う。

「けど、気持ち悪いからずっと取っとく」

下から顔を覗かせてニヤリと笑った。すると、倉間の目を塞いだと思えば涙を適当に拭い、手を引き、屋上へと向かった。

泡食らったような顔をしていると、南沢は今度は怒り始めた。

「お前な、誰が見ているか分からないところで泣くなよ」

「いきなり何でそんな深刻な顔してくるかと思えば、知らん女に嫉妬なんかすんな馬鹿」

「なっ…嫉妬じゃないですし、つーかモテるアンタに嫉妬したらストレスで胃が常にキリキリですよ!!」

自分の不注意は申し訳ないが、馬鹿と言われ頭にくる。

「はははっ!キリキリとか笑えるわー…言っとくがオレと付き合うならそれくらい覚悟してもらわないといけないなー」

「誰がアンタと…!もういいです。用が済みましたので帰ります。さようなら!」

さっきまで悩んでいたのが本当に馬鹿らしくなってきた。大体こういう人なんだ、告白しようと思う方が馬鹿なのだ。ああアホらしい。

帰ろうとする倉間に聞こえるか聞こえないかの距離で南沢が口を開いた。

「あーでもお前が付き合いたいならいいぞ。さっきお前が女の子と喋ったって分かったらムカついた」

振り返ると風がサアァ…と吹き、南沢の髪が靡いた。くすんだ屋上のドアノブを掴んだ手が汗でにじんだ。

ピエロが空中サーカスをしている、俺はその手を掴むべきかーーーーー






















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20120812












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