席【吉良と基山】



基山はいつも蔑んだ眼で僕を睨む。部屋の片隅に体育座りして、折れそうな身体に無数の紫の痣。痛々しさの塊そのものだった。
僕は部屋の中央で白い椅子に座り、足を組んでいる。かっこよくマントも着けちゃって…王様の気分だ。
だけど、本当の王様は違う。この入り口が一つの部屋を自由に行き来できるのは基山だけだ。基山は毎日会いに来てくれる。身体がボロボロでゆらゆらと揺れていてもここにきて、僕を睨んでくる。
そう睨まなくても逃げないし、何もしないよ?
逃げるなんて出来たらいいけど、僕の身体はピクリとも動かない。

「君はなんでいつもここにくるの」

答えないと分かっていながら話しかける。言葉が通じないのか耳がないのかわざとなのか。
どちらにしても意思疏通が出来ないのは実に不便だ。無言のままそっぽを向かれた。
俺たちはずっとわかりあえないかもしれない。僕が吉良である限りは、彼にとって憎むべき存在なのだ。


ドアが再び開かれた。いつもと様子が違うし格好も妙だ。
「どうした。なにがあった」
腹の底に虫が疼いているように笑っている。椅子から駆け寄ろうにも動けない僕は、彼に話しかけることしかできない。
「なにって?」
基山がゆらりとこちらを見た。恨めしそうに睨む目とは異なる、蔑むような色を帯びていた。
僕は一瞬怖くて目をそらした。そして、気づいた。僕は彼のことをよく知っているつもりだった。僕の空いた台座に座った同じ顔を持つ全く別人の基山。名前もなかった彼は、僕にちなんでヒロトと呼ばれていた。その名前の意味するところも知らずに幼い彼は、父さんからの愛だと思い喜んだ。

「父さんがオレに期待をしているんだ!これでようやく…ようやく父さんの息子となれる!ヒロトはこのオレだ!あははははは!!」

紫色の光が彼を包んでいく。僕は悲しんだ。彼を傷つけてしまったことに、父さんの息子に固執する彼に、僕の存在は今もなお苦しめていることに。死んでしまえばいいと嘆く人がいる。死んでしまったがために苦しむ僕は一体何をしたらいいんだ。肉体など持たずにただ傍観するだけの縛られたこの場で一体どうしたら彼を救ってやれるのか。

基山は愉快そうに扉を開けていった。解き放たれた扉に手を伸ばした。

「ああ、せめて僕たちが好きなサッカーが、」

彼を救ってくれますように。











20120805




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