消えるはずない光【円夏夫妻】



※イナクロ七話以降の話です(円堂が亡くなったことになってる設定)










ついこの間、白いウェディングを着たばかりじゃない。
黒い喪服をまとって数日間忙しいなかそればかり考えていた。

知らせは突然だった。円堂守は事故に遭い、亡くなったという。それは表向きの発表である。本当は何らかの事故に遭ったようで円堂守はいなくなったのだ。わたしはどういうことかと警察に何度も訊いたが詳しくは分からないと言われた。
とにかく円堂守は亡くなったんだ。
それだけを繰り返された。わたしが受け入れられないうちに周りの状況はどんどんと葬式の準備へと向かっていった。気がつけば、わたしも黒い服を着て手続きや親戚とやり取りをしている。
「残念だったわねぇ…まだ新婚なのに…」
「辛いでしょう?泣いてもいいのよ」
何も知らない人たちからの憐れみの声。わたしが泣かずにてきぱきと行動をしていることにまだ夫の死を受け入れられないと思い込んでいるようだ。

「ご気遣いありがとうございます」
夏未は丁寧におじきをしてその場をしのいだ。本当に可哀想だわと口々に言われるのを浴びながら夏未はじっと耐えた。

受け入れられないですって?何が?円堂くんは死んでいないのよ。だって目の前の箱には何も入ってないんだから!
夏未はそう叫びそうな思いを必死で抑えた。



全てが一段落して家に戻った。
誰も待っていない真っ暗なダイニングの明かりのスイッチを探す。疲れが一気にドッと襲い、鞄を放り投げてテーブルにひれ伏した。頭にコツンと写真立てが当たる。中学の時に撮った写真だ。
「この頃の自分はこうなるなんて思いもしなかったなあ」
夏未は写真に映る円堂を触った。

円堂はサッカーに夢中で、到底わたしなんかに興味なかった。サッカーに夢中な円堂を好きになったのは紛れもなくわたしであり、それでもよかった。マネージャーをしているうちに、そのサッカーへの思いを本気で応援したくなりわたしなりにやってみた。
彼のためになったかは分からないけれど、「夏未ありがとう」と言われるたびに救われた気がした。

それだけで満足だったわたしが今こうしてあなたの妻となり、円堂の姓を名乗っているだけで不思議なものだ。

投げっぱなしの鞄と自分のだらしなさをみて、夏未これじゃあ嫌われちゃうわよと自分に言い聞かせて写真立てを元の位置に戻した。


もしかしたら、今日帰ってくるかもしれないんだ。いつもお腹がすいたーと連呼する彼が。

さあて動こうかと思っていたのに、連日の葬式関連で結構無理をしていたようで、こくりと目を閉じてしまいそのまま夢の中へと落ちていってしまった。



彼は連絡がなければ、どんなに遅くなろうとも必ず家に帰ってきてくれた。遅くなってごめんと頭を何度も下げて謝った。わたしは怒ったけれど、必死に謝る彼の様子がおかしくて結局は許した。ご飯食べてきているはずなのにわたしのご飯も食べてくれる。
今日もまた遅いんだろうと夏未は待った。
時計の音がよく聞こえる。長い間それを聞き続けて時計をみる回数か増える。カーテンからは日差しが見え隠れする。
彼はとうとう帰ってこなかった。

夏未は悲しくなって涙が一粒手に落ちた。
すると、どこからか聞こえてきたのだ。
円堂守の声が、聞きたかった声が。顔をあげると、目の前に14歳の円堂がいた。ずっと会いたかった。いつの間にかわたしも14歳に戻っている。

「夏未ごめんな、しばらく家に帰れなくなった。でも、絶対に帰るから!…待っててくれるか?」
円堂は申し訳なさそうに眉を下げた。

「当たり前じゃない」
夏未の手はどんどん濡れていった。

「ありがとな、夏未!」



目が覚めると外で小鳥が鳴いている。手が少し湿っぽい。
やっぱり夢のせいで涙を流したようだ。

「当たり前じゃない」
わたしはいつまでも待つわ。あなたについていくと決めた時からずっとそのつもりよ。

心の中で意識したときから変わらない笑顔の彼にそっと伝えた。







20120703




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