赤い林檎にみせられて【白雪パロ】1



※白雪姫の話を元にしていますが、いろいろと違います
※キャラ崩壊・性転換・女装あり








とても寒い早朝、あるお城で男の子が産まれた。男の子は肌が雪のように白く、髪は黄金のように輝き、瞳は燃えるような深い真紅で、妃はまさに自分が望んだ娘だ!と喜んだ。しかしすぐ子を産んだ妃の容態は一変し、そのまま天へと召されてしまう。
妃は最後、「娘を頼みます…」と遺言を残した。周りはすぐに妃の勘違い気付いたが、娘だと妃は言った。遺言通りに娘ということで育てよう、男の子ということは絶対口外してはならないと王様以下その場に居た物達は誓った。

私はそんなわけで姫である。
私は美しく気品あるようにと育てられ、決してお前が男であることを悟られてはならぬお前は姫なのだと赤ん坊の時から言われ続け、誰からも愛されるような美しくも白雪のように儚げな
姫へと成長した。

このことをよく思わなかったのは、新しく父の妻になった妃だ。妃はプライドが高く、娘である私の美しさに嫉妬した。新しい妃にとって私は邪魔者であり、他人という枠内に完全に引入っているようで、よりいっそう嫉妬の炎を燃やす。幼い頃から小さな嫌がらせを何度もされたが、そのたびに巧いようにかわしてきた。噂によると、妃は毎日鏡に向かって「私は美しいか?」などと尋ねるらしい。そうして自己暗示でもかけているのだろうか。




「照美さま」
「はい、あら狩人の…」
「修也でございます。今日もまた一段とお美しいですね」

狩人の修也はとても気さくて立場を気にせずお話をしてくれる唯一の人物。城の中では常に気を張っていないので、たまに外に出て気分転換に城の外れの木の下で本を読む。ある日、木の下に先客としていたのが修也だった。修也は腕は城一番のくせにあまり狩りを好まない。最低限の仕事をし、終わればこっそりとこの木の下で昼寝をしているという。こういう場合、先客にいる方がルールを決めるのが普通だと照美が述べると昼寝の邪魔をしなければなんでもいいと言われた。照美はその素っ気なさが気に入った。起きていれば、最初少しお話を楽しみそれぞれのしたいことに入る。とても居心地がよい。

「照美さまは今日もご本を?」
「はい、修也さんはなんだかいつもと違う装いですこと。なにかありまして?」
「………」
いつもならラフな格好で背中に背負っている弓矢など置いてくる。しかし、今日は今から狩りに行くか狩りにいった帰りみたいだ。

無言のまま修也は弓を取りだし照美に矢を向けた。修也の目は照美をまっすぐに見つめた。
照美は慌てるそぶりもなく逃げようともせず、こちらもまた修也の目をじっと見返した。

「今日の獲物はあなたなのです照美さま。妃直々の名でわたしにこの仕事をくださりました」

ギリギリと矢を引く。獲物を捕らえるときの修也はこんなにも美しいものなのか。
照美はなおも動かず、その修也の動き一つ一つを丁寧に見つめる。殺されるのが怖いというよりこの綺麗な一線を眺められることにむしろ嬉しくもある。
修也は限界まで矢を引き、そして解き放った。
矢は照美の髪の中をすり抜け、後ろの木に当たった。

「私は初めて仕事を失敗致しました」
修也は構えた弓を下ろし、その場に座り込んだ。一気に気が抜けたようだ。手をみると汗がにじむ。今までこんなことはなかった。修也は照美という獲物に気負い負けしたのだと分かった。

「照美さまの眼光は非常にお強い。儚いくせに何にも負けない強さを秘めている。狩りの腕には自信があったのですが、まだまだのようです」

修也は苦笑いをして、空を見上げた。青い空に薄く白い雲が覆っている。

「私はもう狩人をやめます」
「えっ…そんな…!」
せっかくのその美しい姿が最後だなんて実に惜しい。
「妃直々の命に失敗したのです。直に私は殺されるでしょう。ならば、私はその前にここを抜け出して狩人の職をやめ、村に置いてきた妹とともにひっそりと暮らします」
修也は立ち上がり、勢いよく弓矢を折った。バキッと大きな音がする。照美の顔が歪んだ。美しいものがなくなる、照美はそれがひどく嫌う。
修也が折れた弓矢を適当に投げようとした。いてもたってもいられず、照美は投げる修也の腕を掴んだ。

「私ね、自分の気に入ったものが無くなるのが嫌いなの。私はあなたに狙われた時、なんて美しい動作と瞳なんだろうと感動したわ。もっと見ていたいと思った。いたく気に入った。けれど、私のせいでそれがあなたから無くなってしまうのは許せない。だからこうしましょう」

照美はポケットからハサミを取りだし長い髪をバッサリと切った。修也は唖然とし顔から血の気が引いた。

「照美さま…!!なんてこと!」

「心配することないです。私の髪は1日で同じ長さに戻るんですよ。これを知っているのは私しか知りません」

「ですが…!照美さまは髪を特に大事にしていると聞いたことあります!なのにそんな易々と…!」

「大事だからこそです。これを持って妃に『矢が当たった反動で谷底に落ちてしまい、落ちる際に枝についた髪の毛しかとることが出来ませんでした』と伝えなさい。そうすれば、殺されずあなたが狩人をやめなくてもいいでしょう」

照美は切った髪を修也に渡し、しっかりと握らせた。
「短い間とても楽しかった。こんなに気をおかずに喋れたのは城の中であなただけでした」

照美はさてとと城の外れの森の方へと歩きだした。
「照美さまどこへ…?」
修也が呼び掛けると、照美は振り返りふふっと笑って人差し指を口に添えた。

「内緒です。強いていうなら私の居たい場所へですかね」

修也は照美の背中に深くおじきをした。
感謝の意と敬愛の意を込めて…。




狩人は姫のいう通り妃に髪を渡し、城を去った。姫のいない城にこれ以上いたくはなかったからだ。狩人は村に帰り、静かに妹と暮らした。












カーテンの隙間から月明かりが大鏡を照らす。今宵は雲もなく、寂れた古い大鏡でも綺麗にみえる。
「鏡よ鏡、」
妃は黒いドレスにきらびやかな装飾をして、薄気味悪く笑みを浮かべ鏡に問いかけた。

「この世で美しいのは誰だい?」
「それはあなた、妃様」
と鏡に写し出された妃の口が開いた。鏡の方の妃は目を閉じており、口だけ動く。姿形は似ているが、髪の色が若干濃く、ストレートだ。それに対して本物の妃は少しくせ毛がある。この鏡は魔法の鏡、望みや願いを写し出す。そして世の真実だけを語るのだ。

「…のはずでした。しかし、先ほど照美姫が一番美しい」
鏡がそういうと、妃であるヒロトは身体を震わせ、血が一気に逆流しそうだ。髪の毛が次第に逆立っていく。怒りの感情により抑えていた魔女としての血が騒ぎ出した。

「照美姫だと…あいつは確か死んだはずじゃ…!」
「いえ、生きています。城の外れの森の中、小人たちと楽しく暮らしています」
鏡は微かにニヤリと笑った。鏡は嘘をつかない。やられた。しっかりと遺体を確認すべきだった。
ヒロトはバッと黒い段幕で鏡を隠した。

「おのれ…照美姫…」
ヒロトはぶつぶつと考え事を始めた。




continue…





20120322









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