二つの傘【白シュウ】






白竜は雨の日に傘を二本持つ。

「アイツ、いつも傘を差さないから」

ビニール傘と黒い傘を持ち、森の方へと向かう。雨の日の森は静かで思い出を蘇らせる。
シュウは大きな木の下、白竜を待った。
湿った草木の匂いと雨の音、嗅覚と聴覚の刺激に懐かしいものが流れ込んでくる。
昔、妹と雨宿りをした。ザアザア降る音に妹は怖いねとくっついてきた。大丈夫だよ、お兄ちゃんがついているよと何度も耳元で囁いた。妹は嬉しそうにうんとさらにくっついた。雨がやむ頃には妹は寝ていた。安心しきった顔がはっきりと未だに浮かんでくる。僕は何があってもこの子を守らねばならない。雲間から見える光が妹を差した。何があっても…。

「シュウ」
思いにふっけていたら白竜が来ていた。
「今日はゴッドエデンで練習だ」
白竜は黒い傘をシュウに渡した。シュウは頷き、渡された傘を開いた。傘ごしの雨音もなかなかいい。限定された視界と弾く水滴に、ちらりと白竜が見える。
「いい加減、傘くらい持ってこい。いちいち俺が迎えに来るのも大変だろ」
「いつもありがと白竜」
シュウが素直に言うと、白竜はお前いっつも…とぶつぶつ言う。耳が赤いことは指摘しないであげよう。

「白竜は雨の日は誰かと過ごしたくならない?」
「うーん、それは寂しいかどうかで俺はそうはならないな、究極に寂しくならない限り」
「またそれー」
シュウはクスクスと笑った。
「シュウは寂しいのか?」
「うんそうだね…でも白竜といると落ち着くよ」
「そうか…」
白竜は照れくさそうに顔をかいた。







あれから少したったけれど、白竜は今も傘を二本持っている。誰かに笑われようが、面倒くさくても必ず持っている。二つあるなら一つ貸してくれと友人らしき人に言われても断る。
「この傘はアイツのだから」
そればかりで絶対に貸さなかった。

「もういいんだよ」

シュウは言った。

「本当はわざと傘を持っていなかったんだ。君と二人で過ごしたい口実に過ぎなかったんだ。そして一番の目的はね、」


白竜は傘を差して歩き出した。寂しそうな顔にすうっと流れる水滴。



「君と一緒の傘に入りたかったからなんだ」

白竜の隣にいるシュウは幸せそうに笑った。



「だからね、もう」
傘は一つでいいよ




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前に書いた創作文の「相合傘」より転換


20120319





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