ミルクティーの砂糖【不鬼】



そろそろ1年は過ぎようとしているのに何を考えているか分からない。だらしなくソファーに座り、持ってきたポテトチップスをポリポリと齧ってテレビを見ている。先日の日本とイタリアの親善試合を録画したものだ。不動が見逃したとか言っていたので見に来ないかと誘ったら嫌な顔したくせにちゃんときた。素直に行くとは言わないのが不動らしいなあと玄関で迎えた時はこっそりと笑った。
アイスティーに砂糖を二つ添えて不動の前に置いておく。ん、と会釈して砂糖を入れる。
前は砂糖を一つだけ添えていたら苦いとこぼして飲んでいた。今回は正解のようだ。
「よかった」
「なにが」
「なんでもない」
不動はあっそとテレビの音を下げた。鬼道は不動の隣に座りアイスティーを一口飲む。試合は後半25分を経過している。日本はイタリアの攻撃によく耐えているため試合は0対0のまま終わるのだろうかと思うところである。ここでイタリアがMFを変えてきた。
「俺さ、」
「うん?」
「イタリアに留学する」
ワアアアア!!と歓声が上がり、ゴールを決めた選手にチームメイトが群がる。最後の最後で決めたのは、さきほど交代して入ってきたイタリアのMFだった。
「――――そうか」
試合のホイッスルが響いた。不動が鬼道の顔を覗きこむ。
「なんだ、泣いてないし」
「な、泣くわけないだろ!…いつ決めたんだ」
「昨日。この試合にかけていたんだ。もし勝った方に残ろうって」
日本は負けたがいい試合だ。次のW杯に繋がるものとなっただろう。不動にも。
不動が鬼道のゴーグルを外す。
「泣きそうな顔してんのになあ。我慢しなくてもいいんだぜ。嫌だと言っても」
「行くな」
こみ上げているのを必死に抑えて不動を見つめる。分からないことばかりじゃなかった。知っていることもある。たとえばこう答えれば、お前は、

「嫌だね、行く」

不動明王という人はこういう奴だ。逆を言いたくなる性格、オレがイエスと言えばノーという。知っていたさ。だが、分からないこともあるんだ。砂糖が2個必要だなんて今日知ったぞ。もっと一緒にいたかった。不動の知らないところもっと知りたかった。

頬に優しく冷たい手が触れた。反射でびっくりしてこぼれ出た。

「お前は素直の方がいいよ」
不動の指に涙が伝う。
「お前こそな…けど、それは」
口の中に甘ったるい紅茶の味でいっぱいになる。

「オレの前だけだろ」
鬼道が先取りして不動の代わりに言った。








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W司令塔の日
20120814




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