彼女はいない【南倉】







先輩は好きな人という枠ではない。
尊敬以上の想いがあるだけだ。

「南沢先輩って本当モテるねー!」

クラスの女子が数人集まって話をしている。早々にジャージに着替えて、時間を余らして窓の外を眺めている。倉間が横目で外をみると南沢にとても可愛い女の子がラブレターを渡していた。白昼堂々とラブレターを渡すとは随分勇気がある。南沢はその子の告白を静かに聞いている。女の子は顔を真っ赤にして精一杯なのに対し、南沢は慣れている。澄ました顔を一切変えていない。女の子が言い終わると南沢は短く何かを言ってその場を去ってしまった。
女の子は下を向いた。

「あーやっぱり駄目だったみたい」
「南沢先輩は誰か好きな人でもいるのかな」
「さー?でもそれだったらその人が羨ましいなあ。あの人気の南沢先輩が好きな人だもの」

人気だから羨ましいのか。
窓の外をみている女子の会話を聞き流しながら倉間は脱いだ服を整えて教室を出た。

南沢さんの人気は今に始まったことじゃない。俺が入学する前から有名だった。
成績優秀で運動も出来て容姿もいい。なによりサッカーで有名な雷門のFWの10番だ。どんな少女漫画のイケメン君だ。女にモテる要素ばっかでなんだかムカつく。
勝手なイメージのままサッカー部に入ったが、俺は南沢さんのサッカープレーをみるとすぐに好きになった。力にたよらないテクニック重視、的確な判断のパス、無駄がない。話も気もあった。どこか冷めていながらもやることはやるし、無駄なことはしない。
南沢さんのようになりたいとだんだん思い始めた。理想だった。
誰かにきいたことがある。去年から南沢さんには彼女がいないらしい。三国さん曰く、興味がなくなったと本人は言っているがどうやら気になる人がいるようだと言っていた。
―――勝手な、本当に勝手な見解だが、その理由が俺にあったら、

「嬉しいな」


「ん、倉間。次は体育か?」
階段を下りるとちょうど南沢に出くわした。びっくりして、身体がびくりと反応する。さっきまで告白を受けていたなんて思わせないような普通の南沢さんだ。

「そうです。あの、さっきの見ちゃいました。本当にモテますね」
「ああ…」
「いつもああやって振って………好きな人でもいるんですか」

南沢は目をぱちくりしてそれから吹き出した。
なにか変なことをいっただろうか。倉間が笑っている南沢をじっと見つめると、言いたいことがわかったのか口を開いた。

「告白された女の子にも言われた。断る理由に興味がないじゃお気に召さなかったようでね………お前にも訊かれるとは思わなかった」
腹を押さえて南沢は答える。

笑いすぎだ。別にいいじゃないか、俺も言ったって。

「で、どうなんですか」
倉間が笑いすぎな南沢をじっと睨む。ぴたりと笑いを止めて、真剣な顔をして見てきた。

「そうだな、いるよ」

いるよと言われた瞬間に心臓が一度止まった。うっすら口許を上げて、こちらの爪が笑っていることが見透かされている気になった。

「…………誰なんですか」


手をぎゅっと握り、震えるのを止めようとするが余計にダメだ。意識してしまう。

「そうだなー今日の放課後の紅白で俺に勝てたら教えてやるよ」

「それ、絶対ですよ…!」

倉間が俯いて言うと、南沢が頭をポンと触れた。

「チャイムなるぞ」

携帯で時間をみると確かにヤバイ。急いで体育館に向かった。



簡単な口約束。知って俺はどうするのだろうか。
走りながら考えた。
もし知らない女の子であれば、自分のこの気持ちは消えていく。あるいは封印して二度と見ないことにする。
もし、もしも…同じ想いが南沢さんにあるんだとしたら。


可能性がゼロじゃないって信じている。だって、
南沢さんには彼女がいないんだから。










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サーカス/シド
をイメソンに。
とにかく危ういからその橋を渡るな。

20120701




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