1度きりの物語【大学生宮坂→風丸】





誘われた打ち上げを断って、まっすぐ家に帰っていた。

今日の大会の出来は最悪で、テンションをあげて喜べるようなものではなかった。

「久しぶりにビリをとった気がする」

周りは気にするな、小さい大会の成績だしあまり体調良くなかったんだからと慰めの言葉をかける。僕はすみません、今度から頑張りますとあまり気にしていない素振りを見せた。スポーツ推薦で大学に入学したもののこういうことが少し多い気がする。大会ではさほどミスしなかったが、練習ではタイムが伸びないことが多く本番に強いだけで・・・というレッテルが貼られた。本番に強いならいいじゃないかと思うが、そんな態度が気に食わないやつもいるようだ。前までは結構それで辛かったが、もう別に気にしてはいない。

カンカンカンとなる踏切が開くことを待ちながら、宮坂は昔のことを思い出した。

「中学生のときもこんなことがあったっけ」

大会でビリをとった。完治したと思っていた傷が開き、うまく走れないままゴールした。あの大会は風丸さんが見に来てくれた大事な試合だったから悔しくて悔しくて、大泣きして、心配した風丸さんが家に着くまでずっと側にいていくれた。慰めようとはせずにずっと側に、不器用な風丸さんらしくて僻んでいた心は解れた。
そして解れた弾みで、「好きです」とこっそりこの踏切でぽろっとこぼした。しまったとゆっくりと風丸さんの顔を見ると「どうした?」と首を傾げられた。踏み切りの音で聞こえなかったんだと安心した。

「ここまでは優しい鮮やかな思い出」

長い踏み切りはまだ開かない。冷たい風が耳を痛くする。深呼吸し冷たい空気を飲み込んだ。気持ちいい。傷口にすりこんでくるようだ。不要の気とともに吐き出した。白く揺れる息が儚げで、電車に持っていかれる。

今はもう泣いても叫んでも風丸さんは僕を助けに来ないことは分かっている。だから泣いたりしない。あの時たくさん泣いたのだから。
電車が通りすぎ、遮断機が上がる。目の前には中学生の僕と風丸さんが楽しそうにおしゃべりしている。まだ綺麗なままの思い出たち。



「ごめんな」


僕は知っている。あの日最後に風丸さんが別れ際に呟いた言葉。
風丸さんが聞こえないふりをしたように僕も聞こえないふりをした。今までの優しい風丸さんを壊したくなかった。
理想はいつまでも理想だ。僕は今もこれからも追い続ける。
いつか本当にいつか、また二人でこの場所にきたい。
踏み切りを渡り、鮮やかな思い出にさよならをした。

僕は走り続ける。















------------------------------------------------
BGM:星物語/aiko
掘り下げられなかった
風丸さん早く迎えにきなさい

20120216




prev next








×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -