勝ち負け【照美と基山】



「こんなところで君と会うなんてね」
アフロディはうっすらと笑みを浮かべた。

「ここははじめまして、というところかな」
実際にはカオス戦、FFIのアジア大会で会っているし、その前からFFの決勝戦で姿を見ている。しかし、話したことは一度もなかった。いつも突然現われて周りを驚かせ去っていく。本当に不思議な人という印象だけ頭にあった。


夕方、買い物途中で公園に寄った。理由は特になかった。オレンジ色が跳ね返る滑り台をぼうっと眺めていた。オレンジ色をみて思い返すのは、グランと呼ばれた頃にどこかの街でみた夕焼け。綺麗な色だが、それは一日が終わる合図でありみんな子どもはおうちに帰る時間だ。オレにとってはひどく悪質な存在。一人だと言われているようだった。
あの頃のグランにとって帰る場所はおひさま園ではなかった。暗い、夕日の光なんて届かない地下の中、帰ると必死で練習する皆がいる。父さんのために、と身体に鞭打って・・・何もかも暗い。だから寝るたびに見る夢は悪夢しかなかった。寝てもさめても暗闇で少しの光を探そうと必死だった。
光といえば、一回だけそんな夢をみたような・・・。
こつんと足元にサッカーボールが当たった。
「すみません、ボールを・・・あれ君は・・・」
白いユニフォームの彼は、じっと顔を見つめる。数秒、記憶をたどってようやく思い出したようだ。

「はじめまして、か・・・なんだか今更のような気がするけど。ここで何しているんだい?」
「アフロディ君こそ」
足元にあるサッカーボール拾い上げ、アフロディに渡した。アフロディは渡されたボールを器用にリフティングし、そのまま話し始めた。
「僕は近くで世宇子中の合宿をしていて、練習終わりにふらっと街見物していたんだ。知らないことはなんでも知りたくなる体質なものでね。そしたらここにいた。ええと、ヒロト君だっけ?君はこの近くで住んでいるのかい」
「うん。買い物の帰り」
「へえ・・・」
会話が途切れた。トントンとアフロディがボールを蹴り上げる音だけが鳴り響く。
何故だろう。なんだかすごく胸騒ぎがする。

「グランは元気かい?」

アフロディがポツリと呟いた。胸騒ぎの原因はこれか。
えっと一気に背中に冷や汗をかいた。どういうことだ。グランはオレであり、オレは元気である。というかいきなり何故グランと発したのか。先ほどまでオレをヒロトとすぐに思い出せなかったくせに。
戸惑っていると、
「さて、ヒロト君。勝負をしようか」
とアフロディはボールを足で止めた。

「勝負・・・?」
「そう、ここで君とあった記念にでも。僕に勝ったらそうだな、今君が思っていることに答えてあげよう」
さっき呟いたことははっきり聞き間違えではない。アフロディは分かっていっている。知りたい。滑り台に反射していたオレンジはとうになくなっており、周りは薄暗くなっていた。それでもアフロディははっきりと輪郭が見えた。
顔に表われたのだろう、アフロディはよしそれじゃあ、と遠くにある公園の入り口にある車が入ってこられないようにするための柵を指差した。

「あそこにゴールしたら勝利」
「分かった」
ヒロトはこくりとうなずいた。アフロディは自分とヒロトの間にボールを置いた。風は吹いていない。二人はお互い動かないで、じっとボールを見ていた。

ざわっと風が吹く。ボールが動いた。
瞬間、同時に動き出した。先にボールを取ったのはアフロディだ。足が速く、無駄の動きが一切ない。さすが敵をもうっとりするくらい美しいプレーといわれているくらいである。だが、ヒロトも負けてはいない。わずかにできる隙を狙ってボールを取った。ドリブルして入り口に向かって走る。

「あまいね」

耳元で囁いて、アフロディはスライディングを仕掛けた。ヒロトの体勢が崩れ、その間にアフロディはボールを奪った。

「くっ!」

すぐさま立ち上がり、アフロディにタックルする。すると、アフロディはスピードをあげて、シュート体勢に入った。ヒロトはその前に出ようと、全力で走った。だが、それも一歩及ばず、ボールは柵をくぐり抜けた。
「惜しかったね」
はあはあと息を乱しているヒロトに対してアフロディは呼吸を乱すことなくボールを拾いに行っていた。悔しい。こんな余裕を見せ付けられるとは。それと、これで訊けなくなってしまった。乱れた呼吸を整えてヒロトは口を開いた。

「アフロディ、君は本当に強いね」
「グラン、君こそさすがだよ」

いつのまにか君付けが取れていた。そして、アフロディもヒロトからグラン呼びへと変わっている。ああ、何か思い出す。そうだ、あの日カオスが雷門と戦う前に夢を見た。

「今日、アフロディに会って一つ分かったことがある」
「なんだい?」

「なんでグランを助けたか。それは君も一人だったからじゃないかい?君のプレーを見たときからどこか似ていると思っていた。グランだったときオレはどことなく無理をしていた。楽しくないサッカーに疑問を持ってはそれを投げ捨てて、ずっとその繰り返しだ。君もFFのときに同じことしていなのではないか、悩んでいたんじゃないかってね。誰にも相談なんてしないでさ。ずっと一人だ。」
アフロディは無言だったが、表情は穏やかだった。ヒロトは続けた。

「ずっと君は上から笑ってみている存在だと思っていた。でも違った。同じ存在だったんだね」

アフロディは最初にあったときに見せた笑みを浮かべて、ヒロトの腕を引き寄せた。
「なら、恋をしても許されると思うかい?」
アフロディはヒロトの上あごをつかんで自分に向かせた。アフロディの目線からそらせない。いや、そらしたら負けだ。

「甘ったるいのは嫌いなんだ」
「奇遇だね。僕もだよ」

滑り台のそばに置いていたヒロトの携帯が鳴った。そちらに目をそらすと、風がいきなり吹き思わず目をつぶった。
目を開くと、アフロディの姿はどこにもなかった。
最後にみた顔が頭にこびりついている。

「だから甘ったるいのは嫌いなんだ」

ヒロトは携帯を取って公園を出て行った。





















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企画:「神様と宇宙人」様に提出いたしました。※追記 企画サイトは現在閉鎖しております。


以前書いたアフロディとグランの話を匂わせてのFFI後の照美とヒロトの話。
ヒロトが同じだといっていますが、照美は違う意味で一人なんだと私は思います。
似ているけど違う。けど似ているから惹かれあう。

20120203




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