【照美+吹雪兄弟】




「アツヤ」

墓石の前にしゃがんで話しかけた。線香の匂いが身体に纏わりつき、余計なことを考えてしまう。切なくさせる匂い。ちょっと前なら一人だということを自覚させて嫌いだった。今はそうでもない。ただ懐かしい記憶を呼び起こしてしまうものとなっている。

「僕はあの人に何もしてあげられなかった」

連絡先も知らない君にどうやったら会えるか何度も考えてきた。ダークエンペラー戦後、病院に戻るとアフロディは退院していた。お礼がどうしてもいいたかったのに、君はすっと消えてしまった。看護師に行き先を尋ねても分からないと言われた。だがその看護師はでもね、と看護師はそっと僕に小声で教えてくれた。

「彼、あのジェネシス戦を物凄く真剣な表情でテレビ画面を見ていて、いつも穏やかな顔をしているのにあの時だけはすごく怖い顔していたっけ。でも、君がゴールしたときに満面の笑み浮かべて、よかったってぼそりと呟いてた。さっといつものすました顔に戻っちゃったけど、お姉さんびっくりしちゃった。すごく子どもっぽく笑っていてね、本当に嬉しかったんだなーって。今でもそれが印象に残ってる」

その次の日にはベットにアフロディの姿はなく、退院したことになっていたようだ。
吹雪は話をきいて、アフロディの想いをようやく強く感じた。

「アフロディ君はどうしてそこまでしてくれたか考えているんだけど、今でも分からない」

会って間もない僕に自らを犠牲にしてまで諦めないこと、自分に自信を持つことを塞ぎきった冷たい僕の心に暖かい風を送ってくれた。何も言えずに君は消えた。

「会いたくてたまらない」

吹雪の顔はゆがむ。
このやるせない思いはどうしたらいい。

「伝えるしかねーんじゃねえか?」

どこからともなく声がした。知っている。この声の主は、

「アツヤ・・・?」

姿は見えないが声は近くから聞こえる。一瞬空耳かもと思ったが、空耳でも何でもよかった。アツヤの声がするだけで心に沈んでいたものが浮上する。浮上したものは涙に変わり、吹雪はそれを放置した。

「今度会えたら必ず、伝えるよ・・・」

元気そうなアツヤの声。きっと笑っている。
お昼のサイレンがなった。今日の午後には東京へ行く予定がある。響さんに雷門中に集合との連絡が入ったためだ。おそらく何かサッカーのことで重要な発表があるのだろう。

「そろそろいかなきゃ。父さん、母さん、しばらくここには来れないけれど心配ないよ。アツヤが一緒に行ってくれるから。一緒に行くだろ?アツヤ」

風が僕の前髪を上げた。当たり前だろという声が聞こえた気がした。









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アツヤに全部持ってかれたので、ほんの少しだけ補足照美↓

【吹雪←照美】
アツヤがこのことを照美に伝えたよ















「そんなに吹雪君は僕のことを想ってくれているのかい!」
「ああ、まあな」
「早く会いたい会いたい会いたい・・・!!」
「落ち着けよ。まだ日本代表すら決まってないんだぜ・・」
「いや、吹雪君は決まりだ。アツヤ君だってそうおもっているのだろう」
「まあそうだけど・・・」
「ならこれはぬか喜びではない!うわあああ会える嬉しいいいい!!」
「会えるって言っても敵同士だぜ」
「何言っているんだい。だからこそいいじゃないか!想っている同士が敵として戦う・・美しい構図じゃないか!しかも吹雪君とこの僕!ああ!」

(士郎の想いはなんか神様の想いとはちょっと違うような気がするんだけどな・・・ま、いっか)

キャーキャー騒ぐ照美を見ながら、少しだけ士郎が羨ましいアツヤだった。







20120108




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