電話【倉間と南沢】






勝手に出ていって分からせてやると宣言されたが敗北した南沢さん。今どんな気持ちですか?オレは悔しいです。いつも隣でプレーしていて、南沢さんのサッカーのテクニックや考え方が実は憧れていました。今更かも知れませんが、好きだったりもします。人としてだと思います。多分。認めたくないのですが、本当です。こんなこと言えたらと何度口の中で転がせばよいのでしょうか。

「お前…自分からかけてきておいて、無言になるのやめろよ」

受話器越しから南沢が溜め息をした。

「無言が嫌ならそっちが話せばいいじゃないですか」

理不尽なことを言っていると倉間だって分かっている。乙女回路なんてたたき切った。相手は南沢さんだぜ?そこいらのミーハーと同じじゃ、この人はオレを見てくれない。

「ん、分かった。倉間元気か」

「?…まあ、元気です。最近練習が厳しくて、身体はへとへとですが」

「なるほどな」

「何がなるほど何ですか?」

「お前、恋しくなったんだろ」

「なっ…!」

たった元気かで何が分かるかと思えば、何言い出すんだこの人は!倉間は誰もいないのに慌てて顔を手で覆った。

「なんだ、図星か」

「ち、ちが…って今適当なことを言ったんですか!?」

「いや、疲れているのにわざわざ電話してくるということは誰かに癒しがほしいのかと」

「南沢さん。自分に癒しの力を持っているとでも思ってんですか」

「持ってたらいいなと」

「持ってるわけないじゃないですか!」

倉間が言い切ると少し残念そうにそうか…と呟くのを微かに聞こえた。

なんだよ、その反応。

心の中で突っ込んだ。期待させるようなことするな。

「…癒しつーより元気ほしかっただけです」

言った後にハッと気付いた。余計なこと言った。またいつものように鼻で笑われる!と思った。

「そうか…」

南沢は案外あっさりとしていた。見透かされた気がして、なんだか悔しい。

「南沢さん」

「なんだ」

「オレ絶対負けないんで」

あなたから言ってもらうんです。そうしないと、こんな自分認められない。

「フッ…やってみろよ」

何に、と聞かないところが南沢さんらしい。サッカーだと思っていたらそれでいい。

「おやすみなさい南沢さん」

「ああ、おやすみ倉間」

安心した倉間はベットに入るとすぐに眠れた。







「倉間のやつ…」

南沢は切れた電話を眺めて鼻で笑った。

「あいつ本気だな」

深い溜め息をついて机に向かうが集中出来ない。

元気がほしくて。

「随分と大きい爆弾を落としていったもんだ」

目の前の勉強に手をつけなくさせるくらいのめり込んでいる自分にもう一度溜め息をついた。



(こっちは寝れないぞ倉間…)














20120105





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