なんとなく放った言葉で君は居なくなった。
長い煙突から薄く細く煙は出始めやがて汚い灰色が青空を台無しにした。悲しむ黒い服の人々はあの煙は君だと思って泣いているのだろうか。
君はそんな汚い色だったろうか?常に赤みがかった頬が幼さを強調しており、髪の間から見えるピンクのピアスがとても似合っていたはず。灰色など君じゃない。
「じゃあどこへ行ったのだろう」
ふらふらと黒の集団から離れて坂を下り、近くにあったファミレスに目が止まる。明るい色が僕を引き寄せた。
「いらっしゃいませ!1名様ですか?」
元気よく指で1を示す女の子にああうんと答え、席に案内された。食べる気は全くなかったが、来てしまったら何か頼まなくてはならない。外を見ると、ビルの隙間から灰色の煙が漂っている。火葬の最中に何を食べるべきか。いや、普通は何も食べないか。僕はメニューの最後を開き、真っ先に目に止まったものを注文した。数分後、先ほどのウエイトレスが持ってきた。
「おまたせしました!抹茶のムースでございます」
手際よく僕の前にムースとフォーク入れを置いていく。そして深く礼をして去っていった。随分深く礼をするとは、礼儀正しい子だなと不安になった。君もそうだった。だから、今いない。抹茶のムースは君の大好物だったね。煙を見ながらムースを口にほうばった。苦さのあと甘さが広がり溶けていく。僕は一口、また一口と食べていくと目尻が熱くなってきた。泣くほど美味しいわけじゃない。不味いわけでもない。この味が失った実感を呼び起こさせるのだ。
「何を泣いているのですか?」
先ほどのウエイトレスが心配そうに声をかけた。
「最愛の方がいなくなってしまったのです。この味と同じく苦みと甘さを僕に広げて消えていきました」
「あなたは最も愛していると伝えましたか?」
「…いいえ。逆にひどいことを言ってしまったようです」
「ようです…ということは身に覚えがないんですね」
「正直のところ」
「言葉は取り返しはつかないと知っていたはずです。私はあなたは一番それを理解している人だと思っていた。君は苦さの前に甘さに溺れたのよ。」
声音が高くなって、彼女の声に近くなっていく。ウエイトレスを見ると彼女だった。
「現実をごらんなさい。灰色なの。君は私は可愛いものとしか見ていなかったようだけど、本当は灰色の部分もあったのよ。ただ嫌われるのが怖くて表に出さなかっただけ」
涙が流れてムースに落ちた。彼女は僕の頬の涙を拭い舐めた。
「涙も綺麗じゃない。汚い塩辛いもの」
じゃあいくねと彼女は食べかけのムースをおぼんに載せて店の奥に歩いていく。
待ってと言おうとしたが、声は出なかった。そのまま目が閉じていった。
気がつくと僕は先ほどまでいた黒の集団の中だった。
みんな空を見上げている。
「ああ、君はこんなに汚かったんだね。知らなくてごめん」
僕は初めて君の灰色をみたよ。
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適当に
20111231
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