「吹雪君、はいこれ。バレンタインのお返し」
「・・・クッキー?」
「うん。一応手作りなんだけど、食べてみてよ」
「照美ちゃんは知ってる?バレンタインのお返しでクッキーはこのまま友達でいましょうという意味って。ふーん、あれ一応本命だったんだけどなー」
「えっ・・・そんな意味とは知らなかったよ。でも、誤解しないでほしい。僕のクッキーにはそんな意味は込められていないよ」
「じゃあどんな意味が込められているんだい」
「このまま幸せでいましょうね」
「なにそれ。照美はこのままがいいの?ぼくはそうは思わないな」
「・・・・」
「照美、そっちを向いててもいいからよく聞いて。僕はずっと幸せが続くとは思っていない。今ある幸せはいつか壊れてしまう。ずっと笑ってはいられないんだ。僕らだってこのままは無理。いつかは大人になってそれぞれのフィールドで闘っているかもしれないし、サッカーをやめているかもしれない。だからこそ、今がすごく幸せで尊いんだ。そう思って、はいこれ」
「あめだま・・・?」
「本当だと、あなたを愛していますって意味なんだけど僕のアメにはそんな意味込められていない」
「・・・じゃあどんな意味なの」
「離れても今ある思い出は色褪せませんように。僕は照美が好きです」
「最後のは願いじゃないよね。吹雪君」
「もう言わないよ」
「僕の方が好きさ」
照美はもらったあめ玉を口に含んで、吹雪の口に移した。あまりに突然だったため、吹雪の口から涎がこぼれ落ちる。吹雪のその様子に、照美は満足そうに「1か月前の仕返し」と笑った。
「照美ちゃんってたまに大胆だよね」
吹雪は涎をぬぐって、照美を押し倒す。照美は抵抗なく、ソファに倒れた。
「仕返しはこうするもんだよ」
あめ玉をガリっと噛む音がした。
「狼の歯は随分丈夫なんだね」
「今日はどこまで余裕でいられるかな神様は」
狼からまた涎が漏れた。
20120314
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