幸せで寂しい【基緑】




毎日会っているのに空を見上げては会いたいなーと手をかざす。


帰る家は同じなのに行く学校は違う。
ヒロトは天文部がある少し遠い高校を選んだ。そこはとても頭がよくないと入れない高校だ。オレはほどほどの高校を選んだ。理由は近かったから以外になくて、会いたいと思う度に少し後悔している。
毎日会えるし休日はデートも出来るのに、こんなにも足らない。満たされない想いが不安を増していく。
あっちの高校で彼女出来てしまったらどうしようと考えて、いつもより沢山ヒロトに絡む。ヒロトは困った表情をみせて、頭を撫でる。何回かその表情を見るうちに自分の感情がヒロトの邪魔をしていると気付いた。
そう思って少しヒロトと距離を置いた。正直耐えるのが辛い。
中学の時はいつも隣にいてくれた君がいない。辛いんだ。愛されてると思ってはいても会えない時間が増えると、辛くて吐きそう。

「会いたいよ…」

学校の帰り道ふらふらとゆっくり歩いていたため、夕日が沈み、リュウジの影も消えていった。
辺りは暗く、遠くの電灯だけが浮かび上がっている。
なんとなく怖くなった。
何もヒロトがオレをずっと好きでいてくれる保証はないんだ。気付いたら泣きたくなった。
リュウジは携帯を取り出してヒロトに電話した。しばらくして留守電に繋がった。

「出られないって分かっているのになんでかけたんだろう」

自分に嫌気がさす。
暗闇は相変わらず怖かったが、駆け足で家に帰った。


帰宅後、携帯を開くと一件新着メールが届いていた。ヒロトからメールだ。


〈さっきの電話出られなくてごめん。何かあったの?〉





本当に何も用はなかった。嘘は言ってない。それなのに、嘘をついている気持ちになる。
(どうしてだろう…)
リュウジは携帯を閉じ、口元に寄せた。次の瞬間、ブーブーと携帯のバイブが鳴り、驚いて落としそうになった。


「もしもし!」

「もしもしヒロトだけど、今話せる?」

「うん、でも帰ってから話した方がいいんじゃない?」


スピーカーから後ろに話し声が聞こえる。多分おそらくまだ部活をしていて、抜けたんだろう。

「今オレがリュウジに話したいんだけど」

ヒロトがムスッとした声のトーンで返す。

「ヒロトが…よいなら…どうぞ」

リュウジはその場にしゃがんで携帯にそっと耳を傾けた。
「ねぇ、オレ限界だから」

「何が?」

「だから、もうやめてほしいんだ」

「…何が?」

「オレ辛い。」

「ねぇだから何が…?」

ガタガタと携帯を持つ手が震える。自分がさっきまで味わった暗闇、そこに突き落とされるかもしれない。じわりと涙が滲みだした。次の言葉が聞きたくない。不安は的中してほしくない。少しあいた間が暗闇を近付けてくるようだった。ヒロトが言い出した瞬間、リュウジは目をつむり息を止めた。



「        」

「…今なんて」

「オレはリュウジが好きなんだ。もしリュウジもまだ好きでいてくれているなら、距離置いて欲しくない」


(ああ、だめだ…)


滲みから本格的に頬を濡らした。ヒロトは何で泣いているか分からないようで、こんなこと言ってごめん、泣かないでと必死に謝った。


「そう、じゃ、なくて…嬉しいんだ。ヒロトがまだオレのこと好きなんだって分かって…オレ、寂しくて…ヒロトと会える時間が減って毎日会ってるくせにさ…うう」


手で涙を拭った。自分で言いながら分かった。ずっと感じてた「寂しい」気持ちを我慢していたこと。


「リュウジ…それはオレも同じだよ」

「えっ」


「オレも寂しい。リュウジがオレの部屋に来なくなったり、電話かけたくせに何でもないって返すのすごく寂しい。リュウジは無理しないで、そのままでいい、素直でいてよ。オレ、そんなリュウジが大好きなんだけど。オレの邪魔になるとか考えないで」

「ご、ごめんなさい…」

リュウジは小さく謝った。

「でも、部屋行くとヒロトが困った顔するから…」

「それはね、リュウジが可愛くて犯したくなるからだよ」
「ヒロト!」

リュウジが泡食らったように怒った。ヒロトは笑いながら、じゃあそろそろ切るねと電話は切れた。










朝、雨が降った。雨の日、ヒロトは電車なので遅れないよう早めに出てしまう。
「雨止んでほしいな」
と玄関先でリュウジはヒロトにいった。
「そうだね」
ヒロトは立ち上がって、玄関の扉を開け、傘をさした。

「じゃあ、行ってくるね」

リュウジに手を振った。いってらっしゃいと応えながら、行っちゃったと寂しくなる。

こう感じるのは、


「やっぱり誰よりも大切だからかな」

雨の音が静かに響いた。















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[俺得企画]
夏が帰る/aiko BGMで基緑でした

20111214




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