僕と光の日常その一



僕と光は平凡に毎日を過ごした。なにもかも新鮮な僕は、全部非日常な日々だと言ったら、光は平凡かつまらない日々と名前をつけたのでそうしとく。 


目覚ましの音が慣れるまで怖くて、はじめて聞いたときは漏らしてしまった。怒られると思ったが光はお前は悪くないよと頭をくしゃくしゃにした。光はくしゃくしゃにした手をかいで、お風呂行きを宣告された。光が作った白いふわふわの泡は僕を包み込んだ。温かい水と泡が僕の皮膚を滑り落ちる。たまに傷に染みて身体をびくつかせると、光はごめんなと謝った。痛くしたのは僕のせいで光のせいじゃないのに。

それからもたまに謝られることがある。いつもその時の光の目線は僕をとらえていない。僕じゃない誰かに謝っている。僕は後ろを振り返るが誰もいないしどうしたのと光は尋ねるだけだ。 

僕自身も驚くほどこの生活に慣れてきた。光もつまらないいうくせに、僕を見るたび面白いを連呼する。もしかしたら光は僕との生活は日常ではあり得ないのかな。面白いよりつまらない方が光は平凡?その方が嬉しい?僕もちょっとは考える。


光が剥いてくれたリンゴの横に僕用なのか小さなフォークがある。じっとみてそれをつかみ、何度も見た使い方をした。痛みが感じられた。慣れていた痛みのはずなのに、頑丈なかさぶたは剥がれ落ち赤は床を濡らす。僕は悪い子だ。これは怒られるレベルではない。躾のレベルだ。光が目を離した隙に僕の胸に三つの赤いラインが走った。それはあの人がした使い方でこういうものだと思っていた。


「やめろっ!!」

光は叫んだ。僕は目を閉じた。嫌なことは目を閉じれば過ぎ去ってくれる。予想していたものとは違ったことが起きた。自分はなにかに包まれている…? 光が耳元で目を開けてと囁いた。
僕が恐る恐る目を開けると、光は涙を流している。涙は僕の皮膚を滑り落ちる。温かく何かが含まれた涙。傷に染みて痛い。 

「僕は光なんだ。だけど君の光になりたいんだ。だからこんなことしないでくれ」

ぎゅっと抱き締めた強さは白い泡のように包み込んでいる。

「光は僕を綺麗にしているんだね」

ぼそりと呟くと、ああと苦笑した。
手からフォークは無くなっていた。






prev next








×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -