24と14【吹照←貴志】



「君がこっちにくるなんて珍しいね。吹雪君。」

練習が終わり木戸川の控室に戻ると、吹雪がソファに座ってケータイをいじっていた。照美は、後ろに回りケータイを覗いた。画面には、雷門中の子が映っている。

「この前の雷門中の試合かい?」

「うん。シードの調査であまりよく見ていなかったから。コーチとしてはやっぱ見ておきたくて。来年こそは白恋の子たちに勝ってもらいたいし」

「へえ、でもうちの子たちも負けないよ」

照美が言い返すと、吹雪が吹き出して二人で笑った。

「親馬鹿みたいだね」

「本当に。じゃあ、照美ちゃんこっちに監督続けること決めたんだ」
「うん。なんだかあの子たちみていると逆にいろいろ学ぶことが多くてね。もう少し続けようかなって」

吹雪が体勢を変え、ソファの背に肘を乗せ、照美をじっと見てきた。

「ん、なんだい?」
「本当は?」
「え」
照美の表情が固まった。ニヤニヤしながら吹雪が照美にまた問いかける。

「僕としてはアジアで戦っている照美ちゃんの姿をまた見られるかなーって期待したんだけどなー」
吹雪の言葉に照美はゆっくりとしゃがんでいった。吹雪君は分かっていっている。そして、僕に言わせようとしているのだ。そう簡単に言ったら負けのようで悔しい。照美は冷静になって立ち上がった。
「僕も吹雪君が早くプロリーグに復帰してくれると嬉しいんだけど。君なら日本代表になれるだろうし、そしたら君とまた戦える」
腕を組み吹雪を見下ろす。これで何も言えないだろうと思ったら、吹雪君は表情を変えずにこにことしていた。

「やーだ。そしたら照美ちゃんに会える時間が減るじゃない。同居しているわけでもないしさ。もう少し照美ちゃんとイチャイチャしていたいんだもん」
吹雪の発言に照美はまたしゃがんだ。相手の方が一枚上手だった。
「もう24のくせに。知らないんだからね」
そっと顔を上げて、照美を見下ろし眺めている吹雪に悪態をついた。また笑いながら照美の頭を優しく撫でた。膨れている照美がすごくかわいい。僕よりも背が高いくせにどうしてこんなに可愛いんだろう。
「大丈夫だよ。その時は照美の傍に行くから」
うーと唸り声を上げて、照美は顔を隠した。耳を見ると真っ赤だった。よしよしと吹雪が撫でていると、トントンとドアをたたく音がした。

「はい」
さっきまでの可愛い照美は一気にかっこいい監督に戻り、スッと立ち上がりドアを開けた。その切り替わりの早さに感心した。そういうところも好きだなーと吹雪が思っていると、照美が声をかける。
「吹雪君、すこしロッカールームの方に行ってくるから。ついでにいつも残っている選手に声かけてくるから」
そう言い残すと、照美は部屋を出て行った。


「ああ、あの子か・・・」
木戸川のキャプテンであり、照美に向ける笑顔が他の子に向ける笑顔を違っているあの子。うすうすは照美も僕も気づいていた。照美はただの憧れなんだと思うと言っていたが、多分本気だ。
「中学生に取られるような僕でもないんだけど」
少し気にはなっている。木戸川のことを話すときに必ずその子の話題が出て、照美が嬉しそうに話している。僕らしくもないが、若干嫉妬している。
独占欲は前よりは落ち着いたと思っていたが、やはりまだあるようでだからといって中学生に焼くなんて、結構不安なんだなともんもんと自己分析した。まさにあの子の年齢で僕たちは出会って、今もまだこの関係は続いている。照美が信用できないわけではないが、結局怖いのだ。失うことは怖い。
途端にカチカチと時計の音が鮮明に聞こえてきた。外を見ると、もう真っ暗だ。
「遅いな・・・」
不安は不安を呼ぶ。吹雪は立ち上がり、ロッカールームへと向かった。



バタンと音がし、ロッカールームから誰かが出てきた。貴志部だった。顔が真っ赤で口を押さえている。吹雪はまさか・・・と思いながら平然とした顔で貴志部に話しかけた。
「遅くまで御苦労さま」
ポンと肩をたたくと、ひぃやあと声を小さくあげた。肩をたたかれるまで、僕に気付かなかったようだ。
「吹雪さん・・・どうしてここに?」
ごく稀に照美の監督ぶりを見ようと、練習に顔を覗いているので顔を覚えたようだ。照美と僕の関係は知り合いということになっていて、少しの間東京にいるから遊びにきているとなっている。
「照美と一緒に帰るために待っていたんだけど、来なくてね」
吹雪がそういうと、貴志部は再び顔を赤くした。なにかあったことがビンビンと伝わってくる。うつむきがちに貴志部はつぶやく。
「今日は監督のこと、照美と呼ぶんですね」
そこに突っ込むか。完全に照美は惚れられているな。
「まあね、アフロディと呼ぶのは人前だけだし。照美と呼んでいいのは僕だけだしね」
貴志部がじいと睨みつけてきたのを見て、少し大人げないことを言っているなと思う。しかし、同じ土俵に立つならそんなことは関係ない。
「監督とは知り合いじゃなかったんですか?」
「知り合いだよ。中学生からのね・・・一時期同じチームでもあったことは前に照美が言っていたよね」
「そういうことじゃなくて・・・!その・・・」
貴志部が言葉に詰まった。まだまだ若い。だからこそ怖いんだ。


「照美は君に渡さないし、照美だって君に振り向かない。」


にこにこしていた表情からキリッとした表情になり厳しく言った。子どもだからって油断はしてはいけない。貴志部の目は揺るがないものを持っている。
貴志部は怖気づくかと思ったら、まっすぐこちらをみている。


「負けません。オレ、諦めることは嫌いなんです」


ぎゅっと肩にかけたカバンを握りしめた。それじゃあ、帰り遅くなってしまうので失礼しますと一礼して、貴志部は走っていった。ここまでが彼の限界だったのだろう。

「ふーさて・・・」
ロッカールームに入ると、座ったままフリーズしている照美がいた。照美と声をかけると、僕に気付いたようでああ吹雪君まだいたんだと上の空がみえみえだ。

「今日の夜は長いよ」
と吹雪はボーとして動かない照美に口づけをした。













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リクエストありがとうございました!
貴志部の片思いとかすげーおいしい
書くのも楽しかったです!
貴志部と照美の間に何があったかは背伸びのほうに書かせてもらいましたのでよろしければ。

20120226




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