「なあ風丸」
「なんだ円堂」
ベットに転がっている円堂は、隣で同じく横になって漫画を読む風丸に声をかける。大して用もない休日に円堂の家でこうやって過ごすのが習慣となっていた。
「風丸って好きな子いる?」
唐突すぎて漫画を手から落とし胸に当たった。うまい具合に角が当たったため地味に痛くて、胸を押さえた。
「大丈夫かよ、風丸?」
円堂が起き上がって、風丸の方に近付いた。
「お前が似合わないこと言うからだろ!」
怒鳴って唾が自分にかかった。仰向けで怒るもんじゃないなと風丸は思った。
「で、いるのかやっぱ」
はぐらかしたかったのに、円堂は問い詰めてくる。
こういう話は苦手で、たまにクラスメイトに聞かれるがいつも興味ないと答える。年頃だし興味ないわけじゃないが、誰かを好きとかなんかあまり考えたくなかった。真っ先に浮かぶ人を「好きな人」に括りたくない感じだ。
「…興味ない」
顔を腕で隠して平常心を保つ。バレたくなかった、円堂に。
「そうかー…」
円堂はそういってまた横になった。
なんだか寂しい気がする。円堂はいるのだろうか?好きな人。サッカーバカだからありえないと考えていたけど、こんなことを言い出すなんてまさか…な。
「円堂はいるのか?」
「うん」
すぐに返ってきた返事に、空耳かと思った。胸がざわざわし出す。
「けど、脈なさそうなんだ」
腕をあげて円堂の方をみると背中が見えた。いつもより他人みたいだ。
「すんげー頑張ってアピールしてんだけど、だめっぽい」
苦笑いする声が聞こえる。
「諦めるなよお前らしくない。」
慰める言葉を言っただけで、風丸はそれまで押さえてきた感情が溢れてきた。自分で自分を追い詰めてる。目が潤んできて再び腕で顔を隠した。見てもいないのに。円堂は自分を見ていないのに。好きな人じゃないけど、ずっとそばにいたい、ずっと他愛のない話でぐだぐたと今日のように。でも、円堂が同じ気持ちをその好きな子と味わいたいなら、俺はやめなきゃならない。好きな人でないから。認めちゃえば、いいけどやっぱ無理だ。
感情も考えも混乱して、ついに涙が出てきた。
すると、急に腕が持ち上がって目の前に円堂が覗きこんで言った。
「本当に諦めなくていいんだな?」
円堂の真剣な表情に押されて頷いた。
風丸の涙を円堂は自分の裾で拭った。
そして、おでこにデコピンされていたっと声が反射ででた。
「んじゃ、興味持ってくれるように頑張るぜ」
円堂は楽しそうだった。
20110614
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