海の日【綱塔】




お互いに忙しいし、あっちはケータイを持っていない。塔子は高校生にもなるんだし持ったら?と言ったのだが、持ち歩くの面倒だしと綱海はサーフボードを叩いた。

「俺にはこれがあるか、言いたいことある時はすぐ行ける!海はどこへでも繋がってるからよ!」

綱海らしい。しかし、ここは東京であちらは沖縄だ。遠すぎるでしょって思ったけど自信満々な綱海をみてあえて言わなかった。

「あたしから言うことあったらどうしろっていうんだよ」
目の前の課題を片付けながら、つい独り言を呟いてしまう。
パパがあたしを自分のせいで縛らないように、最大限努力はしてくれてるが、それでも世間体を取り繕うためには、ある程度こなさないといけない。
だから友達と遊ぶことはあまりない。遊ぼうものなら必ずSPを一人連れて行くので、相手は私を総理の娘というレッテルをこれみよがしと貼り付ける。それがたまらなく嫌だし、そのためか友達は出来なかった。仕方がないと諦めていた。しかし、サッカーを始めてからそんなもやもやは消えていった。そして円堂の言葉で救われた。欲しかった同い年の友達、仲間が出来た。辛く厳しい旅だったけれど、嬉しくて楽しくて毎日があっという間だった。
そうして綱海にも出会った。あっさりとサッカー出来るようになっちゃってライバルとして意識したなあ。塔子は思い出してクスッと笑った。その拍子に机にあった写真たてがパタンと倒れる。
慌てて写真たてを持ち上げてガラスが割れてないか確かめる。
写真はDEを倒した後に取ったものだ。あたしは綱海と肩を組んでいる。屈託なく笑うあたしがすごく羨ましい。
あたしは気付いてしまった。あの頃より少し経ってから。
気付いたら会いたくて、それは難しいからアドレス交換しようと思ったのに。

「綱海のバーカ」

写真の中の綱海にでこピンを食らわせた。
塔子はそうやって気を紛らわせようとしたのに、余計に辛くなった。すると、チャララーと携帯電話のメールの着信音が鳴った。しんみりと自分の世界に浸っていた塔子は身体をビクリとさせ、携帯電話を開いた。知らないアドレスで件名はなし、ただある地名が書いてあった。

「なにこれ…迷惑メールじゃなさそう…」

気になることはすぐに確かめたい。
急いで準備して車を出してもらい、本文に書かれた場所に向かった。そこは雷門中近くの川辺のグラウンドだった。

「誰もいないじゃん…」辺りを見回したが、特に変わった様子もない。

「よ!」
後ろから頭を軽く叩かれて塔子は、思わずSPフィクサーズに教えてもらった足技をかけた。
ドタンと倒れた人をみると…綱海だった。
「え!?綱海!?あ、ごめんつい怪しい人かと思って…大丈夫?」
塔子は綱海の方に駆け寄った。
「いってぇ…これくらい海の猛威に比べれば…それにしても塔子つええな!どこでそんなもん覚えたんだ?」
「SPフィクサーズの人に教えてもらった…それより血出てる!手当てしなきゃ!待ってて、今すぐ救急箱を…」
塔子が車の方に戻ろうとすると、綱海が塔子の手を掴んだ。
「こんなの自然乾燥で大丈夫だ。それに…もう待てない」
先ほどとはうってかわって綱海が真剣な目をしている。塔子は全てを見抜かされそうで目を逸らした。
「…じゃあこうしよう」
塔子はポケットにあったハンカチを破って出血部分に巻き付けた。綱海もそうされるとは思ってなかったらしく、なすがままされた。
「これお気に入りのハンカチだったんだからね!その代わり何が待てないかきちんと説明してもらいましょうか!」塔子は顔を真っ赤にしながら、綱海に言った。さっきまで会いたいと思っていた相手に会えるなんて胸がずっとバクバクしている。

「お、おう…なんだか今日は威勢がいいな…ハンカチありがとな。実はサッカーしているとなんだその、物足りないなって感じがして、なんだろうなーってずっと考えたんだ。んでようやく分かった。張り合う相手がいないことに。しかもそれ塔子じゃなきゃなんか嫌らしいんだ。これを伝えにきた」

「まさかサーフィンして…」
「そうしようと思ったけど、雷電に止められた。だからサーフボードないだろ」

思っていたこととは違っていたけれど、嬉しかった。
自分は綱海にとってまだ張り合える相手だということに。それだけで十分だ。
塔子から笑みがこぼれた。
綱海がああそれと、と再び喋り出した。

「もう一つは、塔子に会いたかったからだ!なんつーかいろいろ頑張ってる塔子に負けたくなくて、俺も次会うまでは格好いい俺になりてーなと思ってたんだけど、我慢出来なくてよ。会いにきちまったわけだ」

後ろに手を組んで綱海は笑った。自分の気持ちに気付いてないらしい。本当に疎い。
疎いなら言ってもいいかな。鳴りやまない心臓を落ち着かせた。

「あたしもだ!綱海に会いたかった!」それを聞いた綱海は後ろに倒れた。

「どうした?綱海?」

塔子が心配そうに声をかける。
「なんか照れるわ。塔子にそう言ってもらえるとすげー嬉しいのと恥ずかしい」

綱海は後ろに組んでいた手で顔を隠した。

その様子が何故だか面白くて塔子はあははと笑い始めた。
「笑うなよーよし!サッカーしようぜ!」
綱海は綱海で塔子のその様子に面白くなかったようで、体勢を起こして立ち上がった。

「うん!」


まだ気付かない方が面白いかもと塔子は小さく笑った。












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海の日だから綱塔
海関係ない
ケータイないのにメール送れたのは愛だよ
(考えてなかった)
20110718




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