涙 | ナノ


「好き、です」

嘘だと分かっていても名前ちゃんの言葉に一瞬、息が詰まった。本気なのではないかと錯覚するような赤い頬、スカートに皺が出来るほど握り締めた手のひら、上目遣いに俺を伺う目。――全てが、愛しくて。本当ならいい、と願う癖に俺の口から出たのは真逆の言葉だった。

「うん、真に迫ってる。可愛い」
「ほ、本当!?」
「ああ、きっと本番も上手くいくって。――本命、そろそろ来るんだろ? 俺はもう行くから」
「う、うん、本当に今までありがとう」
「いいって。頑張れ、応援してるから」

ひら、と手を振ってみせて、俺は校門を後にする。

「おは朝当たんねえじゃん」

恨みがましく呟く。
何が恋愛運最高だ。最低の間違いだろ、昨日から既に失恋確定だっつーの。
こんな事を緑間に聞かれたら、人事を尽くさないから結果がついてこないのだよ、とか言われそうだけど。なんて違う事を考えて気を紛らわしても虚しいだけで。

「はー、今頃、本命とうまくやってんのかなー……」

胸にムカムカとしたものが込み上げる。駄目だ、目を反らしたら虚しいけど直視した時のダメージに比べると全然たいした事ない。
きっとここが路上じゃなかったら暴れてるくらいにどうしようもない気持ちが溢れてる。こんな事なら格好つけないで言っておけば良かった。
何となく情けない気持ちになりながら溜め息を吐いた時。

「っ、高尾君!」

後ろから聞こえる筈のない声が聞こえた。

「え、名前ちゃん?」

何だろう、告白が成功した報告だろうか。そんなの今聞いたら泣く自信があるんだけど。
そんな内心の動揺を隠して、冷静を装う。

「どうかした?」
「あの、高尾君に言わなくちゃいけない事があるの」

あ、ヤバい。この展開は幸せ報告以外の何でもないだろう。吐血する、そんなの聞いたら俺の心が間違いなく吐血する。

「私、私ね、」

ぎゅ、と名前ちゃんが胸の前で拳を握る。あれ? そんなに意気込んで彼氏出来ました報告とか止めよう。本当に。俺の心を粉々に打ち砕きに来たの?

「ずっと嘘吐いてたの」
「……は?」

予想外の告白に目を瞬く。
嘘って、何が? まさか実は男でしたとか? 彼氏じゃなくて彼女作っちゃいましたとか? いや、自分で考えておきながらないわ。ないだろ。

完全に正常な思考が出来なくなってる俺を、真っ赤な顔で名前ちゃんが見る。

「私、本当はずっと……高尾君の事が好き、です」
「え」

今までの予行練習以上に真っ赤な顔で名前ちゃんが言う。緊張のせいか声も震えていた。
ああ、マジか。やっぱりおは朝って凄いわ、エース様。

「俺も、前から好きだった。……今日からよろしくな、彼女さん?」
「……こちらこそっ」

感極まったのか、泣きながら抱き付いてきた名前ちゃんに苦笑する。そんな反応されたら、俺まで泣いちゃうじゃん。

「大好き、だよ、高尾君」
「……俺も」

ああ、でも、幸せだから、泣いてもいっか。


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -