「ジョウイ!」
がちりとトンファーと棍がぶつかりあう。同じ棍でも、やはり人によって違うと思った。
違うと、思った。以前、何も知らず三人で笑いあっていた頃とは、違うと。
「打ってこいリオウ!」
早さも、強さも。込められた、想いも。
それが何故だかとても寂しく思えた。ジョウイが背負うものが自分とはまったく違うのだと思うと、どうしようもなく悲しかった。
戦争は終わった。なのに何故自分達は、争っているのか。

「……いやだ」
「リオウ……」
「戦争は終わったんだよ、ジョウイ」

再び打ち込まれた棍に腕が痺れる。元々、力は互角。防戦一方では勝てるはずが無い勝負。
負けるということは、死ぬということだ。
分かっている。理解している。しかし、何故と叫ばすにはいられない。何故、自分達は殺し合いをしているのか。

紋章が、自分達を別ったのか。

ぎりりと音がするほどリオウは奥歯を噛み締めた。紋章のせいなど、そんなのは逃げではないか。
最悪の、逃げ方ではないか。
自分は何のためにここに来たのか、何を守りたくて親友と相対したのか。そんなことに、紋章など関係ない。
何度目になるか分からない衝撃に、ついにリオウの体は吹き飛んだ。
地面に叩きつけられて息が詰まる。しかし地面に横たわるようなことは許されない。誰が許そうと、諦めることなどリオウ自身が許せない。

「戦争は、終わったんだジョウイ」
「リオウ……」
「ジョウイの戦いを否定する気はないよ……でもジョウイのそれは、戦争じゃないか」
「どういうことだ」
「僕はずっとナナミとジョウイと笑いあえる世界のために戦ってきたんだ! だから僕はここに来た! 君との約束を果たすために!!」

石に刻まれた傷は、約束の証だったはずだ。その約束は、なんだった?
必ず一緒に帰ろうと誓った日に帰れずとも。三人で共に笑いあえる日が、もうこなくても。
親友が、生きて、幸せであったならと思ったのに。

「何で死ぬ覚悟なんてしてきたんだ! 死ぬ理由は婚約者相手でもピリカでも、自分のためですらない! 今のジョウイの死ぬ理由は、戦争の後始末にしか思えない」
「リオウ……僕も怒るよ」
「怒ればいいよ、僕だって怒ってる」
「なら言わせてもらう、何で君こそ殺される覚悟なんてしてきた! 君は、戦争の勝者なんだぞ! 君が死んだらどれだけの人が苦しむと思う!?」

体勢を立て直し、リオウは再び防御の構えを示す。決して傷つけるものかという意志の表れだ。

「リオウ、君は状況が理解できているのか? 僕が生きていたら、どうなると思う」
「僕が喜ぶ、それにきっとナナミも喜ぶ」

逃げなかったのは。戦争に、自分の戦いの理由があったから。
親友が、そこにいたから。
ナナミという名前にジョウイの顔が歪む。ナナミは死んだよとリオウが言えば、さらにその顔は歪んだ。

「ジョウイ、今なら逃げることだってできるんだ」

今なら、迷い無くジョウイの手を引いてリオウは逃げることができる。それをしないのは、ジョウイにも、リオウやナナミ以外に守りたいものができたと分かるから。
ジョウイの戦いがなんであったのか、リオウは知らない。
それでも、こんな終わりを望むなんてことはないだろう。
彼が親友として自分を頼ってくれたなら、同盟軍軍主として最悪の罪を犯してもいいとリオウは考えているのに。
共に生きれなくてもいいのだ。たとえジョウイが自分を殺そうと、それでジョウイが生きていてくれるなら。
後始末は頼んできた。ナナミはもういない。本当に守りたいものは、今はジョウイ一人だけ。
しかしジョウイはとてもやさしいから、きっとそれでは幸せになってくれない。
また、ここで会おうと約束した時の想いのために戦うのは、愚かなことであろうか。
もう叶うことが無いだろう願いを抱き続けるのは、無駄なことだろうか。
ひとつリオウが分かるのは、諦めたらその想いや願いは、戦ってきた意味が、消えてしまうということだけだ。
だから、

「僕は、僕の戦いを終わらせるためにここにきた」




















「群島はいいところだった、海が綺麗で」
「突然どうしたの?」
「群島は、死者を土に埋めず海に沈める風習があるんだろう?」
「土に埋めることもあるよ、でも、土地の問題から大抵は水葬だね」
「そうか……」
どうかしたのかと心配そうに首を傾げる少年にティルは微笑む。その右手には、布に包まれた刃物を握っていた。
「処分してほしいって言われたんだけど、土に埋めるのも壊すのも何だか違う気がして」
「そう……群島に行くの?」
「そうする、ラズロは……」
正直、不安だった。ここでお別れだと言われても、縋り付けないことは分かっていたから。
「一緒に行くよ、一人旅は寂しいから」
一人旅は寂しい、という言葉はティルに対してか自分自身に対してか。それとも、どちらに対してもか。
「それ、なら、しばらく一緒だ」
「うん、そうだね、……そろそろ私はクレオさんを手伝ってくるよ、詳しい話は夕食の時」
「え、あ、わ、分かった」
ティルは目の奥が少し熱くなったことに慌てそっけなく見えるよう顔をそらし、少年はそんなティルを見て嬉しそうに微笑んだ。


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