「決闘の立会人になってくれませんか」 揺れる琥珀色に秘められた覚悟と決意は強く。 まっすぐに英雄の瞳を見据えた少年は、静かにそう言った。 「僕に?」 「立会人というより、決闘の場所に誰も来ないように見ていてほしいんです」 「僕じゃなくてもいいんじゃないかな」 「マクドールさんがいいんです」 少年は戦力としてティルを求めにきたのかと思ったが違うらしい。 どうやら、少年にとってのティルは、遠い昔の自分にとってのテッドなのだとラズロは思う。 軍主ではなく、自分を自分としてみてくれた人。ただの、弱い一人の少年として扱ってくれた人。 「分かった」 そしてラズロがそれに気が付いたように、ティルも気が付いた。少年にとって今の自分は、自分にとってのルックのような存在なのだと。 唯一、軍主としての自分を否定した人。 自分が自分として振る舞える人。 「今から?」 「できれば、お願いできますか?」 「ラズロ、クレオによろしく言っておいて」 ひらりとラズロに手を振って、ティルは相棒の黒の棍を背負う。 「うん、気を付けてね、いってらっしゃい」 そんなティルに少し微笑んで、ラズロは手を振り返す。 ありがとうございますと言った少年の瞳は、もう揺れていなかった。 あなたにお願いが四つありますと少年は言う。 一つ目は、この道を帰るのが自分の決闘相手であれば、これを渡してほしいと言った。 二つ目は、もしも自分が帰ってきたら、それを返してほしいと言った。 三つ目は、甘えて悪いが、誰も帰らなければ、二つあるであろう死体を処分してくださいと言った。 四つ目は、 「もし僕が親友と一緒に帰ってきたら、それはマクドールさんが処分してください」 「いいの?」 「はい」 迷いなく頷いた少年には、何の言葉もいらないように見えた。 ティルは少年に答えるように真っ直ぐ少年の瞳を見て、渡されたものを握り締める。 「それじゃあ」 今の少年に言葉はいらないように思えた。だから、再会を感じさせない別れの言葉に、ティルは何も言葉を返さなかった。 |