「ラズロ」
「ただいま」
普通だ。ふらりと暗闇に姿を現したラズロは昼に別れた時と変わりない。ただ血の臭いがしている。
「お風呂はいってきなよ」
「そうするつもりだよ、でも何だかソウルイーターが騒いでるみたいだから」
様子見、と呟くラズロに右手を強く握り締めていた左手がゆるむ。どうも、この短期間で自分はラズロに頼りきっているらしいとティルは溜息を吐いた。
「共鳴かな、他にも聞こえる」
右手で撫でられたというのに死神は反応した。焼けるような熱い感覚と共に、断末魔のような悲鳴が聞こえる。
「罰も騒いでる」
「うん、平気? 辛い?」
「平気」
平気と言いながらも全身が疲労を訴えている。制御することに無駄に力を注いでいたようだ。
「寝なよ、私はお風呂に行ってくる」
「うん」
確証は無いが、この人ならば大丈夫だと思ってしまう。テッドがラズロに何を見たのかは分からないが、ラズロには人を安心させる雰囲気がある。
ティルが圧倒的力で魅了し人を惹きつけるなら、ラズロは穏やかに人を受け入れ自分の囲いの中に入れてしまう。どちらもじわじわと侵食する毒のようだ。
「他には、何が聞こえる」
僕には聞こえないとティルが言えば、ラズロは瞼を閉じた。しばらくしてぽつりと言葉がこぼれ落ちる。
「随分好戦的だね、でも斬りかかることはしない、もうひとつは……無」
「無?」
「風、かな、でも私が知っている風とはまったく違う、澄み過ぎていて何も感じない」
「風」
その気配を、きっとティルは知っている。今日の昼、ラズロを見送ってからすぐに会った人物だ。
「あとは君のそれ、すごい高い音」
「ラズロのそれは悲鳴だね」
調子が悪くなるわけだとお互い軽く溜息を吐く。決していい音ではない。
ティルはソウルイーターが暴走しないように必死だ。ラズロはおそらく全ての音が聞こえている。いつもならば無表情か、もしくは微笑が浮かぶ顔は微かに歪んでいる。
「平気?」
「私は聞こえるだけだから、君はそれをちゃんと押さえつけておくんだよ」
ね、とティルの頭を撫でバスタオルを持って部屋から出て行くラズロに、ティルは小さく手を振った。


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