ラズロが帰ってこない。
別に心配はしていない。ティルはラズロが強いことを知っている。しかし日が暮れても帰ってこないとなると、流石に心配になってくる。
一時間前に読み終えてしまった本の頁をぱらぱらと捲りながら帰りを待つ。一人で食事をしても楽しくない。

本当ならば、自分が始末すべきことなのにとティルは溜息を吐いた。ティルが戦えることを、少しのことでは負けることが無いと知っていながらラズロは過保護だ。どこかグレミオに通じるところがあるがグレミオほどラズロは甘くない。逆にグレミオよりも甘いところもあるが。
少し前からちくりちくりと右手が痛む。正確には右手に宿る紋章が。
死神が何を伝えたいのか何に反応しているのか分からないがティルはその感覚をそれほど不快に感じない。魂を喰う時とは違う、ラズロの罰との共鳴のような。
「騒ぐな」
誰に聞こえるというわけではないがティルには聞こえる。あの独特の高音が。テッドが自分達を守るために、あの魔物を飲み込んだ音。
包帯に包まれた右手を左手で覆い窓の外を見た。藍色に染まった空には星が出ている。
ラズロは、まだ帰ってこない。



「大丈夫?」
ビッキーがベッドに横たわるリオウに声をかける。リオウはひらひらと手を振り大丈夫だと伝えるが、正直頭ががんがんとして動くと辛い。響く音はとても高い音。そして微かに聞こえるのは悲鳴のような。
ルックも調子が悪そうにソファーに体を預けている。おそらく自分と同じ事を体験しているのだろうとリオウは思う。
「るっく」
「なに」
いつも通り不機嫌そうな声だが、今はたしかにそこに別の感情が混じる。少し顔に笑みを浮かべながらリオウは、寝れば? と一言だけ伝えた。
「アンタより酷くないから平気だよ」
現在軍主として逃亡中の身としてどうかと思うが、辛いなら早く眠りなよと言われて抵抗できるほどの体力すら、今のリオウには残っていなかった。


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