「ビッキー!?」
「え、ビッキー?」
突然飛び出してきた少年にビッキーを拘束されてリオウは悲鳴を上げる。しかし、ビッキーの喉元に刄を当てた少年はビッキーと言う名を聞くと、間抜けな声を出したあとあっさりと拘束を解いた。
「?」
ビッキーは一瞬の出来事に首を傾げる。いつも通り何も分かっていないような笑みを浮かべたまま。リオウは思わず溜息を吐きそうになったが慌ててトンファーを構えた。
「うわぁ……本当にビッキーだ……」
いきなり剣を抜いたにしては少年に殺気はない。しかしビッキーを拘束した時の殺気は本物、今は穏やかな湖のような青の瞳は静かに燃える青い炎のようだった。
「? わぁ! ラズロさんお久しぶりです!」
「ビッキー知り合い……?」
リオウが困ったように聞けばビッキーは笑顔で頷いた。ラズロと呼ばれた少年も隣で頷いていた。
ラズロが剣を鞘に戻したのを見て、リオウもトンファーを持つ手を下げる。
「驚かせてごめんね、敵かと思ったんだ」
「敵……?」
「自分はまぁ、いいんだけど連れが問題でね、色々と」
深く関わってはいけない、と瞬時に判断したリオウは、そうですか、と相づちをうち適当に話を切り上げる。ビッキーが嬉しそうにラズロに話し掛けるのを見て、そんなビッキーに優しく接するラズロを見てリオウは完全に警戒を解いた。
「また会えるとは思わなかった」
「私も思いませんでした、でも会える気もしてました」
長い付き合いなのか、昔の付き合いなのか。
何も知らないリオウは完全に部外者だ。それを気にするような性格ではないが、こんな森の中で話はどうだろうと思った。
「ビッキー、えと、ラズロさん、こんなところで話はどうでしょう?」
トラや魔物に襲われかねない。そう言えば二人は何の抵抗もなく頷いた。
「でもどうしよう、私はまだやることがあるんだよね」
ここで会ったのは偶然だし、急いでいるならそのままさよならでも構わないと言うラズロにリオウが首を振る。そんなリオウにラズロは首を傾げた。
最初に見た時と印象が違いすぎるとリオウは思う。実はビッキーと双子です言われたほうが納得できそうな雰囲気だ。
「僕たち、もう一人いるんですけど、しばらくバナーにいますから」
よかったら、と言った途端ラズロの顔に子供のような笑みが浮かぶ。色々と変な人だと思うが口にはしない。
「ありがとう、えーと……名前を聞いていい?」
「リオウです、宿にはルックって名前で泊まってます」
「リオウ君、リオウさん? よろしくね」
「リオウで良いです」
リオウは差し出された右手に手を重ねる。ちり、と右手の紋章が痛んだ。
「?」
静電気のような微かな痛み。一瞬だったそれを少し不思議に思ったが、その一回だけで他に反応はない。
「じゃあ今晩にでもお邪魔させてもらうね、あ、分かってるみたいだけど私はラズロ」
ラズロで良いよ、と言われたが何となく呼びにくい。見た目はリオウより少し身長があるくらいなのだが。雰囲気が大人びている、というのも何か違う。不思議な感じだ。
「ラズロさん、でいいですか」
「いいけど、呼ばれ慣れてないから変な感じなんだ」
照れたような困ったような顔で笑うラズロにさっきビッキーはラズロさんと呼んでいたではないかと言えば、ビッキーは昔からだから慣れた、とよく分からない返事が返ってきた。
昔。ビッキーに関しては分からないが、深い意味があるような気がした。リオウの直感はよく当たる。
「私はそろそろ行くけど、二人で帰れる?」
「すぐそこですから」
「うん、そうだね、じゃあ」
ビッキーが森の中へ剣を抜きながら走っていくラズロに手を振る。それを見たラズロは小さく手を振り返した。
すぐに木と草に紛れてその姿は見えなくなり、残ったのは微かなふわふわとした感覚。嵐のような人、現実味がない。この感覚を何といえばいいか。
しかしそんな感覚を感じていないであろうビッキーにいつも通り元気に話し掛けられ、一瞬にしてその気持ちは飛んでしまった。


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