「久しぶり」
「……何してるのこんなところで」
「それはこっちの台詞、隣国の英雄が何やってるの」
「釣り……?」
思いきり溜息を吐かれ、ティルは顔を歪める。目の前にいるかつて共に戦った魔術師は、その時よりだいぶ大人びて見えた。
生意気と言われるような笑みを浮かべていた顔は今の少年からは想像できない。不機嫌そうに腕を組んだ姿はティルにとって驚きでしかなかった。
「どうしたの……?」
「相変わらず失礼な奴」
ゆっくりとティルの隣に腰を下ろしたルックは今までティルがじっと見つめていた釣糸に目を移す。何も言う気はないということを悟り、ティルも集中を釣り糸に戻した。
沈黙が重いと思うことは無い。軍主だったころ、ルックとは散々互いを罵った。唯一、ティルを軍主として見なかった、常に軍主として扱われることを望まないティルの願いを受け入れた人物だ。
今ならラズロが語るテッドが分かる気がするとティルは笑う。
「気持ち悪いんだけど」
「ごめん、本当にルックは何してるのこんなところで」
「軍主のお守りだよ」
軍主? とティルが首を傾げ、すぐに納得がいったと頷く。
「同盟軍……また首突っ込んでるんだ」
「悪い?」
「別に、ルックが軍主とか言うの意外だっただけ」
ルックがティルを軍主扱いしなかったのには、リーダーとして接しなかったのにはティルの願いもあるが大きな理由が別にある。ルックには、ティルに仕えるという意思がなかった。
ただの傍観者としてそこにいた。最後の最後にほだされてしまったが、ルックにとってティルはリーダーだったがリーダーではなかったのだ。
「その軍主様は?」
「ビッキーと出かけた、人のこと引っ張ってきたのにいい度胸だよね」
その言葉を聞いてティルは複雑そうな顔をする。ルックが不思議そうに何、といえば他には? と小さくティルは呟いた。
「それだけだよ」
「そっか」
あきらかにほっとしたような顔をするティルをルックはからかうように笑う。
ティルは英雄として称えられる前に逃げた。昔の仲間には会いたくないのだろう。むっと眉間に皺を寄せるティルは軍主をしていた時に比べ年相応に見えた。むしろ、実年齢を考えれば少し子供っぽいくらいだ。
「釣れないなー……」
「好きなくせに下手だよね」
「うるさい、今は師匠がいるんだからすぐに上手になる」
「師匠?」
ティルはテッドの置き土産みたいなものだよと、右手の死神を撫でながら幸せそうに微笑む。そんなティルを見て、優しくてどうしようもない奴だねアンタ、と呟きルックは溜息を吐いた。


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