親友の。天間星の。歩いてきた道を辿った。
三百歳までは、必ず生きると誓う。それからも、ずっと先も。



「あと百五十年か……長いね」
「僕なんて三百年、歩き始めたばかりだよ」
「何かやること探したほうがいいよ、一年が長いから」
こんなところで話はなんだから、と宿に場所を移し改めて挨拶をした後、自然と話はラズロとテッドのことになった。
ティルの立場、解放軍の英雄としてしたことは知られている。しかしラズロの立場、どんなに過去を見ようとしても、何一つ出てこなかった。
「本当に、貴方は誰なんですか?」
「百五十歳のおじいさんだよ?」
それ以外に何がある。と本当に分かっていないような顔。現実逃避にラズロの首を傾げる仕草は癖なんだろうかとティルは考える。
「ラズロの話すような、色々諦めていた時代のテッドと知り合いで、そもそも百五十歳なんて人間がまずありえない」
「諦めてたというよりあれは思春期とか反抗期とかそんなもののような気がしたな、彼は死ぬつもりなんてなかったみたいだし、最後には結構仲良くなれた気がする」
話が通じない、不思議な生き物と話している気分になってティルは肩を落とした。
大丈夫? と本当に心配している声で問い掛けてくるラズロをティルは無意識に睨む。ラズロは少し身を引いた。
「生まれは?」
「え?」
「ラズロの、生まれた場所」
「分からない」
「え?」
赤ん坊のころに海に流されて、ラズリルで拾われたから。
なんでもないように語るラズロを見て、この人本当に人間なんだろうかと思ったティルを責められる者はいないと考えていいだろう。
「もしかしたら……オベルかな」
ティルは群島の地図を思い浮べる。
「……よく死ななかったね」
「うん、海には何だかんだで愛されてるみたい」
赤ん坊があの距離、海に飲まれて。
本当に奇跡としかいいようがない。
「……じゃあ、テッドと会った場所は?」
「んー……幽霊船?」
「え?」
この人からまともな話を聞くというのは、無謀な挑戦ではないのかとティルは思い始めた。少しどころか一般から飛びすぎている。
「いきなり現れた変な船……と言っていいのかも分からないものの中でね、会ったんだ」
にこにこと笑うラズロを前に、ティルはついに溜息を吐いた。
「……貴方には、普通ってものがないんですか?」
「君には言われたくないなぁ」
一般的、というものをラズロは気にしない。それを理解している。自分が他人とずれていることを知っている。要するに、ラズロは自由すぎるのだ。
「変な縁……」
「本当だね、普通に考えれば私はもう死んでるだろうし」
今も過去も関係なく、英雄同士顔を見合わせて。
夜は静かに更けていく。


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