「久しぶり、大きくなったね」
「お久しぶりです、……元気みたいですね」
「思わぬ訪問者がいてね、少し、外に出てみようかと思った」
 枯葉色のマントを羽織った少年は笑う、青の瞳は海の向こうを見つめていた。
 そんな少年の様子を見て、青年は一瞬驚いたような顔をしてから微笑んだ。
「だからそんな格好なんですね」
「うん、さすがにあれじゃね」
 シンプルな黒のハイネック、心臓を守るためだけの防具。腰には二本の剣。一本には赤く長い布が巻き付けられていた。
 そして、額に巻かれた黒のバンダナが風に揺れる。
「どこへ行くんですか?」
「赤月……今はトランだっけ? 行ってみようと思う。ファルは何でここに?」
 首を傾げる少年に、ファル、と呼ばれた青年は困ったように笑った。悪いことをして咎められた子供のようだ。
「匿ってもらおうと思って。でもいいです、ラズロが外に出てみようなんて、もうないかもしれませんから」
 銀の髪を海風に揺らしながら青年は言った。少年はそんな青年に向かって、まだ逃げてたんだと呟く。少年の言葉に、青年は笑みの種類を変えた。
「犯罪者ですから」
「王子様なのにね」
 まだ諦めるつもりはないのかと少年が問えば、青年は迷いなどない動作で頷いた。
「まだ諦められません」
 諦めの悪さ。天魁星ってそういう星なのかなと独り言のように呟いた少年に、青年は首を傾げる。少年は海を向こうを見据えるような瞳を瞳を細めてほんの少しだけ微笑んだ。





「必ず、またここで会おう」
 言葉を噛み締め頷き、岩にナイフで傷を付ける。
「ジョウイ」
「大丈夫だよリオウ」
 心配ないと笑う親友に、リオウは違うと叫びたくて仕方がなかった。何が違うかはリオウにもまったく分からない。突然の出来事に混乱していた。
 なにか伝えようと口を開く。しかし、ジョウイと手を繋ぎ、飛び降りるその時まで、リオウは何も言えなかった。
「早く行こう」
 がしゃがしゃという鎧の音が聞こえる。リオウは差し出された手を握った。
「ジョウイ」
 心配ないよと微笑む親友の手が微かに震えている事に気付き、同時に自分の手が震えているのにリオウは気が付く。棍を扱う者とトンファーを扱う者、痣が残るくらいに強く互いの手を握り締めた。
「いなくなったら、許さないから」
 親友の目を真っ直ぐ見て伝える。死んだら許さない、とは怖くて言えない。
「あぁ、分かってる」
 子供をあやすような、甘い声で返事が返る。もう、手の震えはなかった。
「リオウ」
「ジョウイ」
 顔を見合わせて、一歩踏み出す。気持ち悪い、ざわざわとする、全身の血が上がる感覚、浮遊感。
 迫ってくる水面、体に衝撃を感じ、意識が途切れた。

×