太陽暦三百七年。今から百五十年程前、群島諸国で戦争があった。
 海で隔たれた小さな島々、その島々を纏め上げ協力者を増やし、侵略してきたクールークを打ち破り群島を開放した戦争。群島解放戦争。その群島にティルは訪れていた。
 気軽に声をかけてくる店の主人や店員であろう人々に軽く頭を下げ、ティルは道を進む。石畳の町は人々の楽しげな声に満ちていて、ついその雰囲気に足が止まった。

(ここがテッドの言っていたところ)

 彼の生い立ちと彼のしてくれた話を考えると、おそらく百五十年程前の話になる。しかし、そこには確かに彼が愛したものが見えた。
 青い海、白い砂浜、人々の笑い声。群島を初めて訪れたティルにもそれがとても大切で愛おしいものだと分かる。
 群島諸国の案内誌を頼りに、ティルはイルヤ、ナ・ナル、ネイ、と見てきた。その島独特の文化や雰囲気はもちろんあるが、どこへ行ってもこの群島全体に存在するであろう不思議なあたたかさがある。
 ティルは道の端で案内誌をを広げ、今後の予定を考える。今いる島、ネイ島からオベルへの船が出ているので、この群島の中心ともいえるオベルに行く予定だ。
 どうやら群島解放戦争で使われた船の展示もあるらしい。今は亡き親友の乗った船、ティルはその船を見ることが今回の旅で一番の目的だった。
 今は自分の右手にある呪われた紋章。人の命を喰らう紋章を持っていた彼が、戦争の中心になるだろうと分かっていながら乗った船。
 きっと、船自体には彼にその決意をさせた理由は無いのだろう。しかしティルは少しでも多く、全てを語らずに死んでいった親友のことが知りたかった。
 彼が何を見たのか、何を思ったのかを感じたかった。
 その中でティルがまず選んだのが群島諸国。友人が懐かしげに読んでいた本の舞台。

「テッド…」



 君の歩いた道を、歩きに来た。


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