頑張れ、頑張れ、あとちょっと。自転車のペダルを漕ぐテッドのすぐ後、腰の辺りから声が上がる。上り坂で必死に立ち漕ぎをするテッドの腰に安定のためか手を回し笑うラズロにテッドが文句を言えば、今度はテッド達よりも前を走るリオウとジョウイが笑い声を上げた。
「あんたが、自転車、乗れれば、俺は! もっと、楽できる、んだよ!」
「私が補助のついてない自転車に乗れないって知ってるだろう? 補助付きでいいなら乗れるけど」
「一緒に走ってる俺が恥ずかしいわ!」
「ほら、急がないとティルに怒られちゃうよ」
腕時計を見せてくるラズロに内心文句を言いながらもテッドは無言でペダルを漕ぐ。町が見下ろせる場所にティルの家は存在していて、訪ねるには長い上り坂を上る以外の道は無い。
一人分余計な重さがないので必然的に先を走るリオウからラズロさんは軽いからいいじゃないですかと声がかかるが、見た目ほど軽くないんだぞ! とテッドは叫び返した。
「わあ酷い」
「黙れ筋肉は重いんだ……」
無駄な筋肉はないが必要な筋肉はしっかりついているラズロは見た目ほど軽くない。身長は170程度しかないが重さは平均以上はある。
テッドはラズロより身長が低く体力も無い、どちらかといえばラズロが自転車を漕ぐ立場なのだがラズロは自転車に乗れないのでどうしようもなかった。
こいつは何でも器用にこなすから、と一度駄目だと本人は拒否していたのにテッドはラズロを自転車に乗せたことがある。自転車で何を謙遜してるんだと思ったが、ラズロだから、でテッドはその言葉を流した。しかし言葉の通りラズロは盛大に単体で事故を起こしたのだ。
事故、といってもただ転んだだけだったのだが勢いが良すぎた。それ以来ラズロは自転車に対しての苦手意識を強め、テッドはラズロと自転車の組み合わせがトラウマだ。ラズロは腕や足を擦りむいただけだったのだが自転車の状態が酷かった。
代わりましょうか? と心優しいジョウイは言うがテッドは断っていた。こんな親切な人間だからこそ代わってはいけない。良心が痛む、と。
自分よりも小柄なリオウに頼むのもなんだとテッドは仕方なくラズロを荷台に乗せているが、事実としてリオウのほうがテッドより力も体力もある。テッドも勿論理解しているが男としての意地だった。
そして最近頭はとても良いが体力無しで有名な無愛想な少年と同列に並べ始められていることにテッドは地味な危機感を感じている。テッドは体力は無いが持久力はあるのだ。それに周りがずば抜けているだけで一般より少し抜き出た体力を持っている。しかし、周りの奴等がおかしい、自分は普通だと言わないところにテッドの人間性が滲み出ていた。
「あんまり、くっ付くなよ、暑い」
「……だってぐらぐらしていて落ちそうなんだ」
「落とさねーよ」
青い空に浮かぶ白い雲、照りつける太陽と焼けるアスファルトは今の季節を分かりやすく教えてくれる。何でこんなに暑いんだとテッドがぼやけば、寒いなら寒いで文句を言うくせにとラズロは言った。
「寒いのは、あんただって、駄目だろ」
「今年もお鍋一緒にやろうね」
「魚じゃなくて肉も入れろよ!」
坂の上で待つリオウとジョウイを目指してテッドはラストスパートと必死にペダルを漕ぐ。じわりじわりといつも以上に汗が流れるが身に受ける風はとても心地良かった。


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