真っ暗だ。



愛想笑いと本当の笑いが分からなくなった。
自分が今本当に嬉しくて楽しくて笑っているのか分からない。この笑顔は本当か、嘘か。何を思って浮かべる笑みか。
三百年生きて、見る目、というものは鍛えられるどころか衰えるばかりだ。慣れすぎて分からなくなる。擦り切れる。
今になってそんなことばかり考える。こんな状況に追い込まれて思い出すのは何でもない会話や小さな記憶ばかりだ。
三百年、辛く長い道だった。辛いことばかりだったのに思い出すのは少しの間だけ身を寄せた場所や人、幸せだったといえることばかり。
託された右手のそれが呪いだと気づいた時は、絶望しかなかったというのに。
不思議だなと思うのにそれが当たり前だと思う自分がいる。そう思うのならきっとそれが真実なのだろう。
生きるのに疲れたかと言われれば疲れたと答えるし、まだ生きたいかと言われれば生きたいと答えるだろう。
不幸だったかと訊かれれば不幸だったと答えるだろうし、幸せだったかと言われたならば胸を張って幸せだったと答えるだろう。
真っ暗だ、纏わり付く闇は暗く歪んでいて、しかしあたたかい。生温いとでも言えばいいのか。闇の中に金色の光が見えた。
自分の手を握る手はこんなに冷たい手だっただろうかと考えて自分の感覚が麻痺していることに気づいた。闇はこんなにあたたかく感じるというのに。
壊れたものは直せるが、元から無いものはそのままだと笑った少年はどうしているだろうか。罰を背負い償いと許しを掲げた彼は今、本当に心から笑っているだろうか。それとも、もう世界には居ないだろうか。もし生きていているなら、笑っているだろうか。
目の前で顔を歪める少年は今まで通りの純粋な笑顔を見せてくれるだろうか。死を、呪いを託した自分を怨むだろうか。三百年共にあった憎いものを、希望を押し付けた自分に呆れるだろうか。
眠くは無い。意識もはっきりしている。しかし体が自分のものではないようだ。残らず絡め取られ飲み込まれてしまう。
ああ、どうしようか。聞こえるのは悲しむ声だけだというのに。それでもどうやっても何があっても争えない。全てを奪おうというのに包もうとする。この絶対的な闇と光には争えない。



最後に見たのは、瞼の裏だった。


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