「海に帰りたい」
ここに俺の帰る場所はないから、と海を眺めるラズロはどこか遠い目をしている。ラズロがこんな弱音を吐くことは今までなかった。思わずぽつりともれた言葉だったのだろう。ラズロはすぐにしまったと言ったように顔を歪めた。これはめずらしい、とテッドは少し驚いた顔をする。
「君のその顔のほうが俺はびっくりだよ」
「どうしたんだよ、リーダー」
後ろで今の言葉が聞こえたのだろう、ラズロが友人と呼ぶもの達が心配そうな顔をしていた。
「ラズリルの奴等見てみろよ」
「あ、ごめん」
軽い声で片手をあげ謝罪するラズロにテッドは溜息を吐く。複雑そうな顔をした友人達は何も言えずテッドに全てを託した。
面倒なものを、と思うがリーダーの命令は断れない。ラズロのそばから離れることは叶わず結果的に託されたものを受け取ることになった。
「何を探してるんだ」
最近のラズロは船を動かしてばかりだ。以前のように島から島へと動き回ることもなく、ただ海を走らせている。
交易はしっかりしているようだがそれ以外は常に船の先端にいて、まるで何かを探しているようだ。
「何で俺まで連れ出した」
「君は目が良いから」
それが自分やアルドを連れ出した理由か、と別の位置から海を見ているアルドを見る。ラズロは出かけるとき以外基本的にテッドに干渉しない。今まで出かけることが異常なほど多かったのでほぼ毎日のように顔をあわせていたが。
「本当になに探してるんだ」
こんな広い海で、というテッドの言葉にラズロは曖昧に笑う。
「見つかるかも、分からないものだよ」
「それを言えば情報だって集まるかもしれないだろ」
「これは俺の我儘で、意地だから」
それ以上何も言わない、青い目は青い海を見つめたままだ。
「暑くてやってられない」
「脱げば良いのに」
その上着、と青いコートを指差す。中に着ているのだから別に脱いでも問題ないだろうに。
そのコートに大量に暗器を仕込んでいることをラズロは知っているがこんな見渡しても海ばかりのところで使うことは、まったく、とは言えないが、ないだろう。背に背負っている弓矢があれば十分だ。
「断る」
「怖がり」
「そろそろ仕事しろよ」
「朝の内に終わらせた」
今こんな自由をさせてもらっているならそうなんだろうなと今日何度目かになる溜息を吐いたテッドをラズロは笑う。
「次は交易でモルドに寄って、その近くかな」
愛しそうな、憎らしそうな目をして海を見るラズロに、付き合ってられないといいながらも部屋に戻らないテッドは相当毒されている。
「何でこいつなんだろうな…」
「うん」
分かっているのか分かっていないのかラズロは首を傾げる。テッドは今日も溜息が止まらない。
「これは俺の、意地だから」
「そうかよ」
見つかるといいな。と呟かれた言葉はしっかりとラズロに伝わる。しかしラズロがいつものように、微笑むことは無かった。


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