軍主という立場から一日中ラズロは人に囲まれる。目に見えずとも確かな繋がりを感じる。
それを不快に思ったことはないがラズロも人だ、一人になりたいときもある。
しかし軍師を筆頭にラズロが一人で出かけることを誰も許さない。当たり前のことだと分かってはいるが、自分にそれだけの価値があるとラズロは思えないのだ。
価値があるのは、罰の紋章を持つ切り札的な、時に非情な決断を下す軍主だ。ラズロ自身は少し剣に自信がある少年でしかない。
重たい、と思う。軍主を演じている時は良いが、自分が、ラズロなのだと思ったときに潰れそうだ。
労りの言葉はよく聞く、しかしそれは軍主に向けられたものであってラズロへの言葉ではない。
ラズロは完璧な軍主であろうと思った。ただ真っ直ぐで弱音など吐かず常に最前線にいる人間であろうと。人間を捨て軍主になろうと。
軍の中にはラズロを見捨てるようなことを命令するエレノアを否定するものも少なくない。それはラズロを思ってか、軍主を思ってか、ただ人としての意地か。
エレノアの作戦に軍主は不満を持っていない。軍師は軍主を戦後まで関わらせ利用する気はないようだし、一番犠牲が少ない方法ならそれがいいと思っている。
しかしラズロは複雑だ。守るためだと、そう思えば勝手に体と気持ちは動くが遠回しに死んでくれと言うその言葉に死にたくないと叫んでいる。
だが、軍主をやめようとは、逃げようとは思わない。
ラズロは自分に甘い、だからこそ逃げられない。

「あ、亀」

誰もいない砂浜で一人呟く。正確には近くに一人いるのだが完全にふて寝を決め込んでいるらしい。今は日陰で木に背中を預け寝てしまっている。
悪いことをしたか、と思わなくもないが仕方ないから仕方ないと自己完結した。口から出していたなら盛大に顔を歪められただろう。
小舟の近く、いつもならばまだ幼い少年が待っていてくれるが誰もいない。

「テッド連れていくって言ったら一発だったな……」

それだけ今背後で寝ている少年は信頼され実力もあると認められている。そしてラズロを、常にラズロとして見てくれる。一人になりたいとき好都合だ。
ラズロのことをただの子供扱いするくせにラズロをリーダーと言う。その言葉や態度に偽りがないことがラズロは不思議だった。
寛容なのかそうでないのか。船で仲間に囲まれていた時は笑っていたのに、少年を部屋から連れ出し、手を引いて無理矢理小舟に押し込んだ頃には完全に拗ねた顔をしていたラズロを見て、それまで文句を言っていたのにぴたりと少年は文句を言うのを止めた。
しかし無人島に着いたと思ったらふて寝だ。これは本人がふて寝してやると言っていたので間違いない。

「綺麗だなー」

今だけはラズロはラズロだ。死にたくないと叫んでも誰も答えない。
生きたいといえば、少し顔を歪めて泣きそうな顔で、生きれば良いじゃないかと笑うであろう少年が想像できる。それだけで、いい気がしていた。


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