そりゃああの人は美人でかっこ可愛くて家事全般得意で強くていい人だと思いますよ? でもそれとこれとは別だ、そもそもあの人には最大の欠点がある。とリオウは目の前のほのぼのとした光景を心底憎らしそうな目と表情で見つめる。
「最大の欠点って?」
ティルはそんなリオウに嫌々付き合いどうでもいいと言った口調で淡々とリオウに相づちをうつ。
目の前にはラズロがナナミに花冠の作り方を教わる、という何とも微笑ましい光景があった。
ここはラズロの恋人としてティルはナナミに嫉妬する場面かと思ったがそんな感情は湧いてこない。ただ微笑ましい。しかし隣にいるリオウは違うようだ。
「性格ですよ性格! いい人ですけどあれは絶対付き合ったら疲れるタイプですよ!」
あんな人にナナミはやれないとぶつぶつ呟くリオウをティルはどうするべきか一瞬本気で悩んだ。
「そのあの人と付き合ってるんだけど」
「マクドールさんは例外です、ちゃんと捕まえておいてくださいね」
花冠ができたのかラズロが嬉しそうな顔をする。ナナミが、お手本で一緒に作っていたのであろう花冠をラズロの頭に乗せた。今は日の光を受けて金に見える髪に白い花の冠。女の子のような顔もあって普通に似合っている。
それのお返しなのかラズロは教わりながら作った花冠をナナミの頭に乗せる。二人はお互い嬉しそうに笑った。
「男の嫉妬は見苦しいよ」
でもラズロとテッドとグレミオの嫉妬は許すとティルが言えば、リオウは微妙な顔をして作りかけの花冠を完成させる作業に戻った。

元々リオウが少ない自由な時間(仲間集めや交易は自由な時間に分類されるので実は自由な時間の方が圧倒的に多い、軍師は泣いている)に姉と久しぶりに普通に遊ぼうと出掛けた先でティルとラズロに出会ったのが始まりだ。
お互い目が合って挨拶しないほど仲が悪いわけではないしラズロとナナミの仲は良い。ティルとリオウも友人、と呼べるのかは微妙だが仲はそれなりに良かった。
少し話して、ラズロが作りかけの花冠に興味を示した。昔親友が作ってくれたのだが何をどうしてそうなるのか、魔法のように作られていくそれの構造が不思議だったのだと。
なら私が教えてあげます! とナナミがラズロを引き込み、ラズロがそれに意識を集中してしまったのだ。

別にナナミに嫉妬はしなかったし微笑ましいとティルは思う、がラズロの口から出た親友には嫉妬していた。
何十年たっても忘れないで憶えている人。ティルもテッドを忘れることはないだろうが、その親友と呼ばれる人が羨ましかった。
楽しそうに話す二人を平和だなと眺めていたティルは頭に突然微かな重みを感じる。
隣を見ればリオウが無表情でティルを見ていた。
「ナナミにあげる予定だったから豪華ですよ」
バンダナの上から乗せられたそれを手にとって見ればたしかに普通の花冠に比べて豪華だ。皆器用だなとティルは思う。教えられても作れそうな気がしない。
「マクドールさんいいなー、リオウの花冠」
一通り話して意識が戻ってきたのかナナミがティルが手に持つ花冠を見て笑う。いる? とティルが差し出せばいいとナナミは首を横に振った。
「リオウ嫌いな人にはあげないから、貰ってあげてください」
「もうこんな時までお姉ちゃんしないでよ」
「こんな時だから!」
元気だね、といつの間にかティルの隣に移動してきたラズロが呟く。仲良く言い合いをする姉弟を見てティルは頷いた。
「花冠作ってよ」
「? 邪魔にならない?」
「僕は作れないから」
君の親友みたいに、だからその代わりと告げればラズロは困ったように笑ってティルの頭を撫でた。


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