テッド。
忘れもしない、親友の名だ。呪いを残し、自分を恨んでもいいと死んでいった友の名。
ティルの隣に立つ少年にとってはかつての仲間、まったく別の呪いをその身に受けた同胞。
「本当にいいの?」
少年は歓喜と嘆きに包まれる町を見つめがら問う。青いだけの双眼には何も映らない。人形のようだ。
ティルは使い慣れた、共に戦った相棒である棍をしっかりと握り締め頷いた。
前を見て歩き出してしまったティルを見て、もう一度町を見て少年はティルの後を追う。前を歩く小さな背を見てどうしようもない気持ちになった。
しかしそれが顔に出ることはなく無表情のまま。昔からの癖は時に好ましく時に憎らしい。
声をかけることもできず静かに後ろを歩く。何を思ってか、足音や気配を消していることにお互い気付かない。聞こえるのは風と草木の揺れる音、微かな人の声。

ゆらゆらと風になびくバンダナを、突然ティルは取った。緑色のそれは後ろを歩く少年に投げ捨てられ、少年は風に攫われてしまいそうなそれを慌てて掴む。
立ち止まり、器用に若草色のマントの上から赤い、解放軍軍主としての印を脱ぐ。それも後ろにいた少年に投げられた。
受け取ったそれを困惑しながらもつい適当に畳んで手に持つ。ティルは何も言わず再び歩き出してしまった。
いったいなんだ、と少年は思うが何も言わない。微かにだがティルの意図が見えてしまった。
先が片方紫色の緑のバンダナ。戦場で一際目を引く赤い服。
ティルの背は相変わらず小さい。さらさらとした黒髪は少し猫っ毛で触り心地がいい。子供体温で寒い時には丁度いい。
普通の子供だ。解放軍軍主、英雄を知らない人たちにはそう見えるのだろう。
しかし少年にはどうしてもティルが普通の子供には見えない。それは右手に強く握る棍のせいだ。
ティルの凛々しいがまだ幼さの残る顔には不釣り合いで、護身用にも見えるそれがどれだけの命を奪ったか少年は知らない。誰よりも血に濡れたティルを見たことがある少年には、それが一番ティルを軍主として、英雄としての姿に見せる。
しかしそれをティルが手放すことは絶対にないと分かる。少年も手放せなかったからだ。
無意識に腰の双剣を撫でながら何も考えずに歩く。ティルが纏う若草色のマントはティルたちを庇い死んでいった従者のもので。耳を飾るイヤリングは小さな希望全てをティルに託し一人の小さな命と引き替えに死んでいった女性のもので。
腕に巻かれた赤い鉢巻きはティルたちを逃がすため一人戦った男の城に残された遺品で。ティルが持つ皮の袋の中に入っている地図はティルが変えた世を見ることなく死んだ軍師のもので。
右手に宿る死神は、たくさんの大切な人の魂を喰った親友が生きた証で。
他にもたくさん。色々なものを背負ってティルは歩く。
少年の手の中には緑のバンダナと薄汚れた赤い服。自らが変えた世を見ることなく消えていった、英雄のものだった。










このあとこんなもの背負わせないでよと1主は全部突っ返されます。色々台無しです。

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