大切な親友へ。



久しぶり。そちらはどうでしょう? 寒いのか暑いのか、何もないのか俺には分かりませんが、君が笑っていたら嬉しいです。
あれから長い時がたちました。今俺はトラン(赤月といえば分かるでしょうか?)のとある小さな家に住んでいます。
自分がどこか住む場所を決め、そこに住むというだけで驚くことですが(放浪癖がついちゃってついふらふらしちゃうんだ)もっと驚くことは一人、一緒に住んでいるということです。
俺が死ねば罰の紋章はまた次々と宿主を食い殺すでしょう。まぁその一緒に住んでる子は絶対に大丈夫なんだけど。
テッドって憶えてるかな、よく一緒に戦った暑そうな青いコートの、蜂蜜みたいな髪の色した俺にかまうな、って言ってた人。
今一緒に住んでる子はなんとそのテッドの親友。テッドは、俺がその子に会った時はもう手遅れに近い状態でね、会えなかった。
何の話だったかな、そうだ、その子には絶対に紋章は宿らない。なんたって死神に愛されてるからね。今は少し臆病になってしまってるけどいい子だよ。たまに頑固で強引なのと、本屋や図書館に行くとしばらく帰ってこないのを除けばね。
俺と同じで紋章に導かれたみたいに軍主になって、普段はすごく大人びてるし軍主として頼りになる顔してる。けど本当は甘いものが好きで甘えん坊。君より何倍もしっかりしていていい子だけど、何だか君のことを思い出すな。

君や皆がどうなったのか俺は知らない。ビッキーやジーンさんには最近会ったよ。ビッキーは何となく分かる気がするけどジーンさんは、この話はいいかな。
俺は逃げ出した。けど、そろそろ帰ろうかなと思う。海に、君たちに会いに行くよ。
まずはフレアに会いに行こうかな。いつか帰って、会いに行くって約束したから。

長くなったかな。自分のことばかりでごめんね。でもちゃんと読んでくれると嬉しいな。
君に会えるのを楽しみにしてる。



「群島に行こうと思う」
その言葉を聞いてきょとんとした顔をするティルにラズロは微笑む。ティルはすぐにいいんじゃないのと答えた。
「群島って何がある?」
「んー……これといって見所は、私が生きてた時代の話だけど」
「百五十年前くらい前だろう?」
「うん」
交易ならたぶん今でも真珠がおすすめだと思う、と言いながらラズロは鍋の火を止める。今日の夕食はビーフシチューだ。
ティルは本を閉じると二人分の食器の準備に取り掛かる。皿やスプーンがテーブルに並ぶ頃には鍋も運ばれてくるだろう。
「旅の予定は食事をしながら考えようか」
「帰るんじゃないのか?」
「帰ってほしい?」
「いいえ帰ってほしくないです、トランからなら……まずイルヤかな、花と饅頭が有名だってよく聞くけど」
そうなんだ、と呟く瞳はどこか穏やかで優しい。私より君のほうが今の群島については詳しそうだねと笑うラズロにティルは曖昧に微笑み返す。今の群島、という言葉が引っ掛かった。
「饅頭かぁ、食べ歩きしたいね」
「……何しに行くつもり?」
本当にそう思っていますといった口調で語るラズロにティルは体から力を抜く。本当に好きだねと言えば、すごくいい笑顔でラズロは頷いた。
「そうだな、仲間達に会いに行く、あと親友に手紙を届ける」
ラズロが言う、仲間や親友というのは約百五十年前の人達だ。ティルはそれを分かっていて、そうかと笑顔で頷いた。


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