くっ付いてラズロが完全にほだされたあたり。ほのぼのぐたぐた。










「何それ」
「ケーキだよ? 苺を貰ったから」
ティルに差し出された皿の上にはケーキが二つ乗っていた。真っ白のクリーム。上には可愛らしく苺が乗っている。
「良い苺だよ?」
「いや、そうじゃなくて……」
苺を貰ったから、と何でこんなものを軽々作れるのだろうとティルは思う。家事全般はティルにとって未知の領域だ。
ティルは料理に関して、玉ねぎの皮むきくらいの手伝いはしたことがあるが包丁を握ったことはない。グレミオが持たせてくれなかったからだ。今思えば過保護にも程がある。
朝から洗濯、掃除、朝食昼食の準備と働き、ついさっきは洗濯物を畳んでいたはずなのにいつこんなもの作ったんだろうとティルは首を傾げるしかない。
見た目は完璧だ。家で作るには気合が入りすぎではないかと思う。ラズロのことだから味まで完璧なのだろう。
「少し休んでおやつにしない?」
ラズロはティルが手に持つ本を指差して微笑む。群島諸国の歴史について書かれたそれは、元はテッドのものだ。
今は姉と親友と共に三人仲良くどこかを旅しているであろう少年に力を貸した時、ティルは一時的に家に戻った。その時テッドが部屋に残した数少ない物の中から持ち出した本だ。
少し前までは聞いても何も答えてくれなかったラズロだが、最近は諦めたのか昔のことも話してくれるようになった。
本に語られるものとは別の、英雄本人から語られる話。
それはもちろん気持ちのいいものばかりではなかったが、ティルはラズロの話が好きだ。大切な親友や、好きな人のことをひとつでも多く知れるのは嬉しい。
「なに笑ってるの」
「何でもない」
本を閉じて膝の上に乗せ、ねだるように笑って右手を差し出せば困ったように笑いながらフォークが手に乗せられる。ティルが座るソファーにラズロも腰を下ろした。
目の前に差し出された皿の上のケーキをフォークで切って口に運ぶ。甘すぎない味はラズロの好みだ。ティルはもう少し甘いほうが好みだが文句無しに美味しい。
「美味しい」
「誰が作ったと思ってるの?」
「そうだよね」
「ん、はい」
ティルは適度な大きさに切って差し出されたケーキに食い付く。昔ならば行儀が悪いと気になったことが、今ではそれほど気にならない。
「ラズロは食べないの?」
折角自分好みに作ったのに、といえばラズロは首を傾げる。
「あれ? ごめんつい癖で、君のために作ったものだから全部食べていいよ?」
「そうなんだ……」
やっぱりよく分からない、と思いながらも君のためという言葉に頬が緩む。ラズロはそんなティルを見て不思議そうな顔をして、再び適度な大きさに切ったケーキを差し出した。
「幸せだなと思って」
「ありがとう?」
「うん、ありがとう」
幸せだなと微笑むティルにつられてラズロも微笑んだ。


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