4主とフレアの余談。逃げ出す船の上で。 遠くなる故郷。目に痛いほどの青。 船を操るのは群島の人間ではない、大陸に渡る者達。よく集められたものだと思う。 ラズロに必要以上に話しかける者はいない。ラズロが積極的に関わろうとしていないのも原因だ。 海の色が変わる。一人見送ってくれたフレアの姿は何時間も前に見えなくなった。 私達の墓、と笑ったフレアはいったいどんな気持ちで自分を送り出したのだろうとラズロは考える。 後悔は無い、しかしどうしようもない寂しさがあった。 いつ自分は帰れるのだろうかと思う、十年先か、五十年先か、百年以上か。 ラズロは逃げ出した。英雄、神と崇められ、兵器として恐れられる。 ラズロはあの場所で居場所と生きる理由を得た。しかしそこはラズロを閉じ込め縛りつけ、利用しようとする場所だ。 船は進む。ラズロの意思とは関係なく。 逃げたい、と思うと同時に戻りたいと思う自分がいる。どうしようもない気持ちが渦巻いてラズロは顔を伏せた。 彼がいなくても世界は変わりなく機能している。たまの海賊騒ぎが無ければ大きな騒動も無い。 今彼はどの辺りにいるだろうかと時間から大体の場所を想像する。まだ広い大陸など見えず、海しか見えないだろうなと思った。 彼がいなくても変わりは無い、だから彼もきっと大丈夫だ。しかし、彼は海から離れたら生きていけない気がした。 彼にとって海は母だ。怖い思いもたくさんしたらしいが、彼は海を母だと呼んでいた。 親離れ、と思えばおかしくはないが、彼が海から離れるなんて考えられなかった。 でも、確かに彼はいない、海から彼は逃げ出した。 人を憎むなら、人を嫌うならば、海からまで逃げることは無かったのに。 彼は海から逃げ出した、自分が積極的に協力したことだが、海の民としては少し悔しいものがある。 しかし憎いとは思わない。彼は重みに耐え切れず逃げ出しただけだ。人として、人以上の扱いを受け入れられなかったという当たり前な理由。 彼は海を捨てたわけではない、必ず帰ってくる。それがたとえ何十年先でも何百年先でもいいのだ。 いつか寂しくなったら帰ってきたら良い、たしかな面影を残し、誰も彼のことを知らない、この海へ。 |