4ED後。










「ラズロ」
甘くやわらかな声がラズロを呼ぶ。
かつて国を守るため戦った、少しやんちゃが過ぎた頃の面影は薄く、フレアは微笑んでいた。
緩いウェーブのかかった金の髪は太陽の光を受けてきらきらと輝く。フレアは母親似だが最近本当に似てきたと父親であるリノは言う。
ラズロはフレアの母親を知らない。しかし今のフレアは最後に罰の中で見た女性によく似ていた。おそらく彼女がリノの妻で、フレアの母親なのだろうとラズロは思っている。
いつもとは違う夢を見せた罰、優しく微笑み消えてしまった人。
フレアにその面影を見るたび、ラズロは複雑な感情を抱いていた。
「またここにいたのね、ここからは海がよく見えるから」
王宮から続く一本道。途中魔物も出て安全とは言えない、道の先は洞窟で行き止まりで、民は滅多に近づかない場所。
そんな道の途中、海がよく見える位置にラズロは座り込んでいた。
普段から肌身離さず持ち歩いている二本の剣を隣に置き、何を考えているのか、何も考えていないような瞳でラズロは海を見つめている。
「懐かしくて、昨日のことみたいだなと思う」
風でラズロの纏う薄い布の多いオベルの民族衣裳が揺れる。無駄に豪華で儀式に使うようなそれは、英雄としてのラズロに民から与えられたものだ。こんなものいいのに、と困ったように笑っていたのをフレアは知っている。
「海を見ると思う、でも人を見るとそうは思えない」
あの戦いからすでに七年はたっている。まだ七年、なのかもしれない。
フレアは徐々に少女から女性になった。七年前は可愛らしいという容姿だったが、今では美しいという言葉が似合う。
共に戦った仲間達も成長し、変わり、老いていく。その中で一人ラズロは七年前に取り残されていた。
真の紋章の呪い。宿主の命を食らう呪いは乗り越えたが不老という呪いが残った。これはラズロも予想外で、こんなことなら同じく真の紋章を宿していたであろう蜂蜜色の髪をした少年に色々と聞いておくべきだった、とラズロは後悔している。
宿主を食い潰し、人へ人へと彷徨う紋章。不老など考えもしなかった。
そして同時に、あの少年の絶望の欠片を見たのだ。
「ねぇラズロ、海に、出たいの?」
「そうだね、時間はあるし、旅をするのもいいかと思ってる」
歳を取らないラズロは現在身を寄せているオベルや群島の一部では信仰の対象だ。
しかし同時に、左手に宿す紋章や人の摂理から外れた存在を恐れる声も多い。
力を持ったもの達の中には、直接表に出ることはないがラズロを利用しようという考えを持つ者も少なくない。
リノやフレア、ラズロと深く関わったもの達はそれを悲しんでいた。
好きで不老になったわけではない。好きで兵器としての力を持ったわけではない。
好きで、人として接してもらえなくなったわけではないのだ。
ラズロはただ笑う。英雄なんて祭り上げられ利用され、いずれ邪魔になり捨てられるものなのだと。何もかも分かっていると、いつも通り、七年前と変わらぬ顔で笑うのだ。
「どこに行きたいの」
「え」
「船くらい出してあげるわ、英雄が定期船なんて格好つかないものね」
信仰の対象の英雄を、強大な力を持った兵器を、簡単に手放すのは難しい。どこからも批判の声が上がる。
かつての仲間達がしてやれることは少ない。いずれはラズロを置いて逝くのだから。
だからせめてとフレアは願う。あの無愛想な少年でも良い、誰でも、ラズロを、ラズロという人間を求め、共に生きてくれる人がいれば。
「でもやっぱりラズロがいなくなるのは寂しいわ、だからいつか私達に会いに帰ってきてね」
それがもし、自分達の墓でもかまわない。だからお願いとフレアが笑うとラズロは泣きそうな顔で俯いた。


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